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「肌キレイねぇ」の水面下で脚は水を掻いとるんや、のぅ?|絵を描くことで思考する #04

ストレスかな? と黙殺してきた白髪の増加がまごうことなき加齢のせいであった。悟り、受け入れ、一年が経った。二日酔いは二日どころで済まず、カルビを卒業し、豆腐のポテンシャルの高さを再確認する、夏ーー正々堂々、四十代のセンターを張っている。

体力、容色、やる気、能力、すべてにおいて誤魔化しようなく劣化している。が、唯一、三十代の頃よりも褒められる機会が増えたのがお肌である。肌くらいしか褒めることがなくなったからでは? 皆まで言わんでくださいよ。とはいえ、自分でも以前よりも自分の肌を扱いやすくなった実感を持っているのは事実なのだ。

愛用化粧水は「メラノCC」だ。カネをかけているわけではない。ただ、手はかけている。保湿を徹底し、日焼け止めを塗り、電車に乗る外出がない日は化粧をしない。そして、とにかく観察する。今日の毛穴の目立ち具合、肌荒れ、質感を鏡で細かく観察し、手で触れ、弾力を確かめる。その心は、筋トレや盆栽の世話にちかい。私にしかわからないレベルの日々の変化を感じ取り、手をかける。そして手をかければ、必ずわかりやすく期待にこたえてくれる。肌の手入れは裏切らない。


牡丹の絵があしらわれた「白磁の銚子」を描いた。

前回の「桃」よりも難しかったのは、桃と違って盛るべき色がないことだ。白い画用紙に桃色の桃を描こうとすると、色(桃色だったり、クリーム色だったり)を意識しながら、画用紙に鉛筆の粒子を乗せていくことになる。が、白い画用紙に白い銚子を描こうとすると? 色を乗せたら、その分黒くなるから銚子はもはや白くない。白い画用紙に銚子の形を浮かび上がらせるためには銚子の輪郭を描けばいいのだろうか? 

画用紙の上に、ざっくりと銚子の輪郭を描いた私に、裕美師匠が言った。

「白い物を描くとき、よく見ると丁寧な仕事がしてあるんですよ。画用紙の地色の白をそのまま生かした箇所もあるけど、うっすら、でもとても丁寧に鉛筆を乗せている箇所もけっこうある。よく見ると、すごく丁寧に塗ってあったりします」

濃い鉛筆は柔らかい質感の黒が強く出るので、おおまかな銚子の輪郭を捉えたあとは、比較的早い段階で硬い鉛筆に持ち替えた。2BとHではこんなに色の乗りが違うのか、と頭で理解していたことを改めてからだで感じて驚きつつ、銚子全体に薄く色を乗せていく。なるほど、画用紙の白とは違う白が浮かび上がってきた。その白は正確には薄い灰色なのだが、明らかに白い。

「磁器のような肌と言いますが、艶があり毛穴がないつるりとしたすっぴん肌ほど、すごく丁寧にメイクしているじゃないですか。まさにあれです。塗っていないようで、ちゃんと塗っているし、シャドウやハイライトなんかも駆使して陰影がきれいに浮かび上がっていますよね」

美白は意外と塗っている


かつて、ある美容家がハイライトの入れ方のコツを話していた。

「お風呂上がりに、鏡で自分の顔をよく見ること。どこに陰があって、どこに光が当たるか。顔の骨格をよく理解すること。暗くなっているパーツにシャドウを入れ、明るくなっているパーツにハイライトを入れるんです」

裕美師匠の言葉と美容家の言葉が一つになった。いま、SNSには女子がメイクの過程を紹介する動画が多数公開されている。唇をぽってりさせたり、目を大きく見せたり、その技術の巧みさを眺めるのが好きなのだが、私がいちばん好きなのは輪郭全体にハイライトを入れていく動画である。人それぞれ違った骨格は、それをうまく強調させることで彫刻のように見違える。たとえば、高いチークボーンを気にしている人は、隠すのではなく強調する。そのほうが不思議と私の目には美しく見えるのだ。

美を発露させる。それにはまず素材を観察すること。誰よりも素材を見ようとすること。そうして捉えた素材の個性が際立つように手を加えること。美とはつまり、個性なのかもしれない。

文・絵:編集Lily



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