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榊とお神酒も準備は万全|Lilyさんの絵画レッスン #02

夏だというのに何とも心躍らない事務作業に翻弄されているうちに、すっかり更新に間が空いてしまった。とは言えその間にも、私は日本を訪れたりLilyさん宅に一家で転がりこんだりして、慌ただしいながらも夏休み的なものを楽しんだのでした。

やっぱりたまには普段の生活の場から離れるって大事だな、視界が変わって頭と身体の中が入れ替わるような気がする。欧米人がヴァカンスに命かけてるのも分かるわ。ということで、またコツコツと更新をしていきたいと思います。


時は遡って、初回はヒアリングから始めることになったLilyさんの絵画レッスン(そんなに遡るのかい!)。

オンライン・ミーティングのセッティングに慣れない私は挙動不審になりつつも、Lilyさんと画面越しに向き合いスタートした。久しぶりに顔を見るLilyさんは、頭上に結び目とボウの先が出るようなヘアバンドをしており、それがよく似合っていてチャーミングだった。ヘッドアクセサリーや頭に巻くものがよく似合う人だ(この交換日記タイトルのLilyさんの絵も、バルテュスの絵から引用したはちまきを巻いている)。

話したいことは山ほどあったが、まずはこの前のLilyさんの回答に沿いながら会話を始めた。読んでいただけたでしょうか、その全文! なんという瑞々しさ、わくわく感。絵画教室に通っていた時の話、名古屋城の襖絵、岡本太郎、大仏、お伊勢参り、色々なことがLilyさんのキレのある語り口で、出てくる出てくる。

話が突然飛ぶようだが、「メディウム(medium)」という言葉がある。画家にとっては、絵の具の溶剤としての意味で日常的に使う言葉だ。辞書で見ると、他には中位・中間、媒体・媒介物、などの意味がある。ちなみに複数形は「メディア(media)」で、マスメディア、伝達手段、そして美術家で言えばその表現形式(絵画や映像など)を指す用語になる。

そしてこのメディウムという単語には、“霊媒”という意味もある。巫女やイタコだ。

美術は(というか芸術全般は)、まさに“霊媒”性をもっている。創作をしているとしばしば、作者自身の想像をはるかに超えた方向に、作品によって導かれるということがある。自分自身の感覚をクリアにして深い集中に入り、作品の声を注意深く聞けている時、この「メディウム」が発現する。

そのようにしてつくられた作品は、作品と鑑賞者、作者と鑑賞者、鑑賞者とその本人、鑑賞者と他の鑑賞者……といった具合にさまざまな対話を引き出す。「メディウム」となって。その対話は時間や空間を飛び越える。

今回の事前アンケートによる美術体験の話にも、そんな「メディウム」が現れた。私もその光景を一緒に見たかのような追体験をしたし、自分の過去の記憶の中の場面や感覚を行き来したりもした。これが美術のなせる業。

絵画レッスンをする時は、私はこの美術の力の周辺で、榊をフリフリしながらうろうろする雇われの巫女のような存在でいられたらなぁと思う。絵画の技法の基本というものはもちろんあるので、その知識は伝えたいが、その人がその人だけの何かと邂逅してそれを画面に描き留める、そんな瞬間を目撃したい。片手に榊、もう一方の手にお神酒の徳利を持ちながら。

この日は他にもあれこれ話したり聞いたりして、色々なことを思ったので、それについてはまた追い追い書きたい。

さて次のレッスンはいよいよ制作。まずは基礎的なデッサンをすることにしたので、それまでに揃えてほしいデッサン用の画材と、モチーフを選ぶ時の簡単なポイントを伝えて、この回は終わりにした。

次回、Lilyさんは何をモチーフに選んでくるかしら、とわくわくしながら待つのもまた愉しい。

空と海が溶け合うところ
(キャンバス、油彩/162x162㎝/2016)


文・絵:仙石裕美


◎ 今回のレッスンについてのLilyの日記


■ London Story:画家の生活|仙石裕美

■ 絵画レッスン交換日記:目を凝らせば、世界は甘美


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