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100.地獄【ショートショート】

「こんにちは、冥界テレビです。
 実はこの地獄では、慢性的にある問題が続いていると言います。本日は、地獄の皆さんにインタビューを試みたいと思います」
 スーツ姿のレポーターが、マイク片手に歩きだす。場面が切り替わり、恐ろしい顔をした鬼の姿が映し出された。
「亡者たちについて問題が続いているそうですが」
「ああ。あいつら辛そうなのは最初だけで、すぐに流れ作業になっちまうんだ。偶に俺らが小突いてやっても、何もなかったように流れに戻りやがる。
 何やっても苦しまないから張り合いが無くなって、俺達も仕事がつまらなくてな。皆どうやって時間まで暇を潰すか困ってるくらいだよ」
 マイクを向けられた獄卒の鬼は、心底うんざりとした顔で答えた。

 場面は移り、今度はいかにも威厳のありそうな強面が映される。
「地獄で起こっている問題について、いかがお考えでしょう」
「神様も想定外だったのだろうな。まさか人間が、ここまで罪を犯すものだらけだとは。儂は定められた基準に従って亡者の送り先を決めるだけだが、獄卒たちには苦労を掛けていると思う。これも課題の一つだな。
 さしあたって問題解決の一手段として、亡者どもの刑期をなるべく短縮しておる。決められた刑期が長すぎたのも原因の一つと思われるからな」
「なるほど。閻魔大王様、ありがとうございました」
 リポーターが恭しく礼をすると、閻魔大王は軽く手を振った。

 再度場面は変わる。リポーターは責め苦の順番待ちに並んでいる亡者にマイクを向けた。
「すいません、インタビューいいですか。
 ちなみに今、地獄歴は何年ほどでしょう?」
「覚えてないけど、多分百年は過ぎてるよ」
 亡者は虚ろな目をして答える。
「これから焼けた鉄縄で打たれて、釜で焼き殺されるんですよね。恐ろしくはないんですか?」
「慣れたよ。毎日繰り返してりゃ、十年経つ頃には慣れた。
 景気の終わりに希望を見ようにも、何兆年後とか想像もつかんし。娯楽も無しに四六時中死に続けるだけの日々だし。
 希望か娯楽が無きゃ、苦痛も恐怖もただの日常になるよ」
 そう言って、刑場に歩き出す。後ろに並ぶ亡者たちも、皆似たような表情だった。
「こういった無気力亡者ばかりで、この地獄に居ても殆ど悲鳴は聞こえてきません。以上、地獄の存在意義を問う問題についてでした」

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