81.ストラップ【ショートショート】
「お母さーん、これ何?」
年末の大掃除を手伝う娘が、物置から持ってきたものを差し出して尋ねてくる。手に提げている物は、何とも懐かしい物だった。
「ああー、懐かしい! そんなとこにしまい込んでたんだ。
それはね、携帯電話のストラップよ。昔は携帯電話にそういうのを着けて、無くさない様にしてたのよ」
ふーん、と生返事しながら、娘はストラップを色んな方向から眺めている。
「んー? これ、どうやって着けんの?」
「細い紐が付いてるでしょ、それを通す穴がケータイには必ずあったのよ。スマホになってからそれが無くなったから、今はもう着けられないけどね」
ストラップが入っていた段ボールには、学生時代の品々が入っていた。幾つか手に取って確認しながら、娘の質問に答える。娘は掃除の手を完全に止めて、ストラップを一つ一つ眺めていた。
「えらく沢山あるけど、日替わりで付け替えたりしてたの?」
「いや、全部連結させてるでしょ。その状態で纏めて着けてたわよ」
「は? いやいやそれはいくらなんでも噓でしょ。だってこれ、千羽鶴くらいあるじゃん。こんなのポケットから提げて歩いてたら、バカ丸出しだって」
娘のまるで信じていない態度はもっともだった。しかし本当なのだから仕方がない。
「当時はそれが流行りだったのよ。女の子は皆、小さいケータイに巨大なストラップ群を着けてたの。
なんでそれが流行ってたのかは、お母さんも分からん」
流行ってそういうものよと、おどけてみせる。怖いものなしだった女子高生時代を懐かしみながら、私は掃除の続きに戻るのだった。