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37.花火【ショートショート】

「ヒコ! オリちゃん! ほらほら、二刀流! めっちゃ煙すげぇ!」
 手持ち花火の煙に巻かれてゲホゲホ言ってる俺を見て、幼なじみの男友達ヒコナと、高校から仲良くなった女友達のオリメちゃんが笑っている。
 高校二年目の夏、三人で河川敷に集まって花火を楽しんでいた。始めはバケツを囲んでいたが、お調子者の俺が騒ぎだしてからは、二人がそれを見て笑う構図が自然とできていた。
「次! 次、火柱花火行くよー! てか、これ手持ちでいけるんか?
 …お、着いた。って熱っ! 熱、あっつ!」
 吹き出す火花を浴びて熱がる俺を、二人が大笑いしていた。
「アッハハ! もう、バカすぎー。ちょっと、危ないって。放しなよー!」
「おい、こっち向けんなよ!? 火傷するのはお前だけでいいからな!」
「アツ、熱い! どうしよ、なぁどうしよ! ってか、長! ハハハッ!」
 三人ともが大笑い。最高の夏がずっと続いて欲しい。
 本当は解っていた。でも少しでも長く三人の世界でありたかった。だから過剰にはしゃぎ続けて、二人の気を自分に引き続けた。
 バケツのそばにいる二人、その足元には線香花火。それを二人が手にしたら、終わりだと思ったから。

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