書評:「作曲少女」

作曲少女」 仰木日向 著、まつだひかり 絵、 ヤマハミュージックメディア 2016年

 わたしのような作曲どころか中学レベルで音楽知識が終わっている読者が読むのであれば最低でも2度は読める本である。
 1度目は、作曲という言葉にあこがれ、女子高生が2週間で1曲仕上げるという副題に興味をもって、あわよくば自分もできるのではないかという期待を持って読む。読んで自分も同じことをやってみる。
 わたしの場合は、本書の主人公が、わりと簡単にやってしまう「耳コピ」で挫折した。主人公と先生役の現役女子高生にしてプロ作曲家が展開する、2週間作曲レッスンのストーリーに直接は関係ないので、DAWに関する詳しい記述はないが、どうやら主人公はDAWのピアノロールに打ち込みをする作業にあまり苦労していないようで、わたしの経験と比較すればかなりの短期間で、1曲のメロディーを「耳コピ」してしまう。ここらへんは話の都合上しかたのないことかと思う。
 「耳コピ」の技能は作曲レッスンの初期の段階ででてくるので、ここで挫折すると、この本の良さはあまりわからないのかもしれない。
 わたしは「作曲少女」を読んで、2年ほど空白があったのち、MuseScoreを知ってある程度作曲ができるようになってから、もう1度読み直した。
 すると、どうだろう。2度目は先生役の言っていることがよくわかる。
 世にある音楽の理論書は、作曲ができるようになってから理解できるようになるという言葉はまさにその通りなのだ。
 それだけではない。「作曲少女」の1番の良いところは、クリエーターが心がけるべきことが的確に書いてあることだ。この肝のところを読んでちゃんと自分のものにするには、何度でも読み返すべきかもしれない。
 ラノベの体裁をとり、主人公は女子高生、難しいことは書いていない。それでいてストーリーやキャラが面白いだけでなく、作曲の指南書にもなるという、この本を成立させた著者の力量には尊敬の念を抱かざるを得ない。
 著者自身作曲家で、文筆の才能もあるというなんとも羨ましい人である仰木日向に関するネットの情報は残念ながら多くない。しかし、著者の他書のラインナップをみると、どうやらラノベ&ハウツーのような新しい領域を開拓しようとしているらしく、続編や「作詞少女」などにも興味が湧く。
 クリエーターを目指すなら読んでおいて損はない。

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