【読了】決算・財務報告プロセスに係る内部統制の不備と対策(企業会計2024年10月号特集)
対談(玉井先生×浅野先生)
FCRP(決算・財務報告プロセスに係る内部統制)
FCRP(全社)
・GL→個別FS
・個別FS→連結FS
・連結FS→開示
FCRP(個別)
・高リスク取引:デリバティブなど金融取引
・見積予測:引当金、減損、繰延税金資産負債
・非定型不規則取引
"ゆるふわ"ないし"骨抜き"な制度設計や実務慣習
・「本来企業として実施すべき財務報告リスクへの対応手続」と「制度対応として要求される実施手続」に乖離がある
・USSOXは「Material Weakness」を出すが、JSOXでは「開示すべき重要な不備」をほぼ出さない
2線(経理部門)が運用している内部統制自体の脆弱性
・マインドセット:数値のセルフチェックをしてない(監査法人に丸投げ)
・プロマネ:決算財務報告プロセス(仕訳計上だけでなく、セルフ監査、内部統制評価、監査法人対応、有報開示に至るまで)全体のための期間とリソースを想定していない
・決算資料体系:自己説明力の高い(self-explanatory)体系になっておらず、第三者がレビューしにくい、Excelシート上の関数がブラックボックス化
・実施手続:上長承認の有無など形式的なチェックしかしていない
・レビュー:目の前の証憑の押印チェックに終始して、数値の生成過程全体に気を配れていない
・体制とリソース:M&Aや決算早期化を推進しているのに、経理体制は脆弱なまま
3線(内部監査部門)による内部統制評価上の問題
・会計処理のスキル(経理部員としてのスキル)と、正確性をチェックするスキル(監査人としてのスキル)は全く別物
・単純にリソースがなく、正確性をチェックする余裕がない
その他
・経理部門の地位が低く、人気がない
・1線がリスクのオーナーシップを果たしておらず、2線(経理部門)が責任追及される:減損損失を計上しなければならない原因は1線にあり、本来2線はモニタリングするのが役割
・経営者が、管理会計(これから儲けるための会計)を重視するあまり、財務会計(制度会計)を疎かにしてしまう
お薦め
・多くの優良企業において、グループ全拠点における経理人材の人事は、親会社のCFOが掌握している(子会社経営者が子会社経理の人事権を握っていると、不正会計が起きやすい)
連結手続
連結手続に関連した内部統制
・一定の内部統制は整備されている、しかし実効性が乏しい
・「連結範囲の決定」から「連結FSの表示」に至るまでのプロセス
開示すべき内部統制の不備の事例
・手続そのものを誤った
・連結消去仕訳の誤り:売上高の過大計上
・連結組替仕訳の誤り:個別FS→連結FSの勘定科目変換時に区分を誤った
・注記作成のためのデータ収集漏れ
・仕訳承認者によるレビュー漏れ
・新規適用された会計基準への準拠漏れ:IFRS16リース
・例外的な会計事象の処理誤り:企業結合時の「負ののれん」相当額の見積もり
・連結子会社における不正や誤謬を検出できなかった
原因
・新たな会計事象への対応力不足
・承認者の会計処理スキル不足(レビューできない)
・人材不足やスキル不足:これはFCRPというよりもELCの問題
・統制環境:人材不足を放置する組織風土
・リスク評価:財務報告の信頼性にかかるリスクを軽視する評価方式
内部統制の強化ポイント
・調整対象案件を漏らさずに特定するため
・親会社経理による子会社数値の異常点分析
・親会社経理と子会社経理のコミュニケーション:報告すべき事柄を詳しく決める
・スキル不足の承認者でも確認漏れをなくすため
・レビュー(査閲)手続を具体化する:何と照合して判断すればいいのか、レビューしやすいように追加情報を仕訳に添付するなど
・研修を実施する
・経理財務責任者によるモニタリング強化
・外部専門家の活用: ※ただし外部専門家の作業結果をレビューする責任は自社にあり
・注記情報を漏れなく収集する
・収集様式を改善する(BS PLとは異なり注記の様式は複雑)
・漏れがある状態で提出できないようにするコントロールを追加
税効果会計
税効果会計にかかる手続の特性
・税法の知識が必要
・繰越欠損金
・減損損失
・退職給付引当金
・税制変更に迅速に対応する必要あり
・決算スケジュールの後工程(税前利益を確定させた後)に実施されるため、検討や手続自体に十分な時間が取れなくなる可能性あり
①まずは、税効果会計を除いた全ての財務諸表項目を集計し、税前利益を確定させる
②一時差異に基づく繰延税金資産/繰延税金負債を計算する
③注記事項を作成する
・繰延税金資産負債内訳:「繰延税金資産および繰延税金負債の発生の主な原因別内訳」
・税負担率差異内訳「法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異の原因となった主な項目別の内訳」
・実体がないため妥当性の判定が困難
・繰延税金資産:将来に課税所得が発生する(課税所得が発生しなければ、繰延税金資産は実際の税負担の軽減には役立たない)ことを見込んで見積もる
・繰延税金負債:将来の税金負担を見込んで見積もる
・評価製引当金:将来の経済環境を仮定した業績見通しに基づき見積もる
開示すべき内部統制の不備の事例
・不正などに伴う資産や利益の修正に伴い、税効果会計処理にも修正が必要になった(金額と注記記載の修正)
・税務処理における判断ミス
・固定資産購入について、一括費用処理を行うべきところ、定額減価償却をしていた(減価償却費の過小計上)
・繰延税金資産の回収可能性がなくなったが、取り崩しを行わなかった
内部統制の強化ポイント
・情報連携
・経理部員間:他の会計処理が、税効果会計にも影響する可能性があるため、担当者間の連携も必要
・顧問税理士
・監査法人
・決算スケジュールの精緻化
・税効果会計の検討と処理手続に十分な時間をかけられるようにする
・システム投資
・税効果会計への影響有無の自動判定
・教育
・担当者任せにしないこと
減損会計
減損会計のプロセス
①対象となる固定資産の特定
・有形資産:使用権資産(かつてのリース資産)を含む
・無形資産
・投資その他の資産:非流動的な金融資産(長期投資、関連会社株式、長期前払費用、など)
②資産のグルーピング
③減損の兆候の把握
④減損損失を認識するかどうかの判定
⑤減損損失の測定
減損会計にかかる手続の特性
・減損損失が計上される場合は高額になる
・不正/誤謬リスクが高い
・経営者による見積もりに依存する
・外部検証が難しい:企業内外での情報非対称性が大きいため
・導入初年度において減損損失が必要な事態は発生しにくい
内部統制の強化ポイント
・チェックリストやマニュアル類を作成して終わり、ではなく、不備事例(開示された訂正内部統制報告書など)を確認し、自社の事業環境と照らし合わせて、自社としての留意点をもりこんでいくことが重要
・社内の重要な会議体(取締役会、監査役会、経営会議など)において、減損の兆候に関わる重大事象が起きていないかをモニタリングする
・店舗別損益計算において、
・特定店舗に紐づけるべき項目(人件費、広告宣伝費、など)が全社に紐づけられている
・全社に紐づけるべき項目(仕入割戻、報奨金、など)が特定店舗に紐づけられている
注記・開示
特徴
・注記・開示における不備とは、決算数値自体の修正ではなく、注記事項の脱漏や、開示書類への表示組み替えミス、など
・他の内部統制の不備とは異なり、注記開示にかかる不備は、期末日時点以降(開示書類の作成段階)に発覚する
・そのため、不備が発覚しても修正することができない
・開示する場合は、「当事業年度末日後であったため、当該開示すべき重要な不備を、当該事業年度までに是正することができなかった」と記載する
・監査人からの指摘により発見されることが多い
・不備が開示情報に直接影響する
・開示書類のチェック体制(人員数、専門知識、スケジュールの余裕)が不十分であることが多い
内部統制の強化ポイント
・注記開示に関する誤謬のリスクを再評価する
・表示チェックリスト(https://jicpa.or.jp/specialized_field/20240418cev.html)を活用する
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