【読了】決算効率化を実現する会計監査対応の実務


はじめに

決算早期化はCFO組織にとって重要な目標
・上場企業には45日ルールが適用される
・経理部門は、決算整理仕訳を少しでも早く起票して、開示資料を少しでも早く作成してきた
・監査対応も、決算早期化に必要な重要タスク

第1章 監査法人に何が起きているのか

会計監査人
・公認会計士(個人)
・会計事務所
・監査法人

大手監査法人の業績分析

・会計監査サービスは人件費率がとても高いビジネス(65-75%は人件費)
・パートナー(事業会社における出資者かつ役員)になると退職金があり、その積立が人件費を高めている
・営業利益率を高めるために、大手監査法人は、採算の悪い契約(監査報酬が低い上場準備会社の監査など)は受けたがらない

・大手監査法人は国際的監査事務所(フランチャイザー)と提携している
日本の提携監査法人は、国際的監査事務所にRoyaltyを支払う代わりに、彼らのグローバルネットワークを活用して海外拠点を監査できる
国際的監査事務所(EY/DT/KPMG/PwC)は、世界で最も厳しい米国の監査基準などに準拠しなければならないため、日本の提携監査法人(新日本/トーマツ/あずさ/あらた)にも同様の品質レベルが要請されてしまう
自社に国際ブランドの監査が本当に必要か?(自社にとっては過剰なサービスではないか?)、検討した方が良い

J-SOXバブルにおける監査法人の罪

・エンロン事件を受けて米国でSOX法が導入され、日本にも影響が波及してJ-SOX(内部統制報告制度)が導入された
・監査法人はJ-SOX導入支援コンサルティングサービスを企業(2009年リーマンショック以前で企業側にもコスト意識が低かった)に過剰に売り込み、公認会計士合格者を大量に採用して(IT統制部分は、元エンジニアを採用して丸投げした)、教育せずにクライアント企業に投入し、結果として膨大な業務を作り出してしまった
・さらに、監査時に、コンサルティングでアドバイスされて実施することにした膨大な業務は、不要だとみなされるようになった(コンサルティング業務で必要と煽り、アシュアランス業務では不要だと見做す自己矛盾が生じた)
リーマンショック以降の不景気とJ-SOX導入済企業が増えたことにより、監査法人の案件は減り、リストラ(高齢者の早期退職、若手の出向を含む)を行って収益性を改善させた

・J-SOXの目的は内部統制を構築することではなく、あくまでも財務報告の信頼性を担保することだけ(なので、ITGCに不備があっても、マニュアル統制でカバーできていれば、適正意見は出せる)
・公認会計士は、「業務の有効性効率性」や「関連法規の遵守」の専門家ではないため

会計士のモチベーション

かつては、監査法人の職員は、若手の頃に経験を積み、30代で独立し、中堅監査法人からアルバイト業務を受けて生計を立てる者が多かった
しかし、アルバイト業務の活用による品質問題が大きくなり、公認会計士協会は監査法人に正社員化を薦めたため、独立する職員は減ってきた
そのため、ポストが開かず、昇進できず、経験も積めず、昇給もない、という傾向が生まれた

会計士の中でも専門性が分かれており、サラリーマン気質の人もいれば、コンサルタント気質の人もいる
・グローバル企業専門(最も厳しく成長できる環境)
・国内拠点専門
・ベンチャー専門
また、「二重責任の原則」の導入以降、決算手続や開示資料作成の実務経験が積めなくなり、金額差異の原因究明方法などのアドバイスができる会計士は減ってしまった

監査法人が陥っているマニュアル主義

・監査法人の業務品質を監督するため、マニュアルとチェックリストが整備されている
・しかし、マニュアルやチェックリストに従うだけでは原理原則から外れることもある
・原理原則を教育で導入した上で、マニュアルやチェックリストを使うべき

第2章 なぜ監査を受けるのか

監査を受ける理由

・利害関係者間の利益を調整/保護するため(法定監査)
・内部統制を強化するため
・経営者を牽制するため

監査の対象
・一定数の株主がいる上場企業(金商法)
・大会社や委員会設置会社(会社法)
・独立行政法人
・地方独立行政法人(公立大学法人など)
・国立大学法人
・学校法人
・労働組合

監査役監査との違い

・取締役会を設置している会社は、監査役を置く必要がある(会社法381−1)
・会社ではなく独立行政法人/地方独立行政法人/国立大学法人などは、「監査役」ではなく「監事」と呼ばれる
・会計監査人:会計監査、財務諸表上の数値の適正性をチェック
・監査役等(監査役・監査委員・監査等委員):業務監査、取締役などの職務遂行をチェック

日本の財務諸表監査と内部統制監査

財務諸表監査:監査の対象は「財務諸表」
・内部統制監査:監査の対象は「内部監査報告書」
 ・見るのはあくまでも報告書であり、内部統制を直接見ている訳ではない(なので「内部統制報告書監査」という表現が適切)
 ・経営者の結論(「適正に整備運用されている」/「適正に整備運用されていない」)が正しく開示されているかのみに関心があり、実際に内部統制が適正かどうかは気にしない

監査報告書とは

・有価証券報告書に添付される
・表題:「独立監査人の監査報告書」
・宛先:取締役会
・監査意見:監査対象となる財務諸表名や期間など
・監査意見の根拠
・監査上の主要な検討事項(KAM)
・財務諸表に対する経営者および監査役等の責任
・財務諸表監査における監査人の責任
・監査人の署名
・監査報告書日

監査の限界

・財務諸表の数値は、経営者の判断や見積もりを多く含んでいる
・ICFRが有効であるという前提で、試査による監査を実施している(現在の技術では精査が不可能)

不正会計を見逃した場合の監査法人の責任

法律が定められているものの、裁判で監査法人の責任が認定されたケースは少ない
何故ならば、監査人は「職業的専門家としての正当な注意」を払って監査を行えば、責任を果たしたことになるという前提があるからである
(さらに、原告側が「監査人が実施したどの業務が債務不履行に該当するのか」を立証しなければならない)
監査法人では、訴訟対策のため、穴のない監査調書を作成するために時間を費やしている

監査チームの作成した調書は、監査法人内の審査(レビューパートナー&審査部)、JICPAによるレビュー、金融庁による検査、および訴訟に耐えうる必要がある
そのため、大手監査法人では、国際ブランド(US)が作成した監査マニュアルに従って調書作成を行う

・損害賠償(民事)
 ・民法:債務不履行責任、不法行為責任、使用者責任
 ・会社法:被監査会社に対する損害賠償責任、第三者に対する損害賠償責任
 ・金商法:虚偽記載のある届出書等/有価証券報告書/内部統制報告書に対する発行市場/流通市場における責任
・行政処分(金融庁、日本公認会計士協会)
 ・公認会計士の業務停止や登録抹消

過去の事例
・エンロン事件(2001年):アーサーアンダーセンは解散、日本では朝日監査法人はKMPGに加入
・カネボウ事件(2005年):中央青山監査法人(後のみすず監査法人)が業務停止
・オリンパス事件(2011年):あずさ監査法人と新日本監査法人は業務改善命令
・大王製紙事件(2011年):監査法人トーマツには処分なし
・東芝事件(2015年)

監査におけるインセンティブのねじれ

・所有と経営の分離により、株主(所有者)は経営者に経営を委託している
・会計監査人(会社法上の)を選任し、監査報酬を決め、財務諸表の監査を依頼しているのは、監査役等(会社から独立した人間)ではなく、取締役会(元々は社内の人間)である

理論的には、「会社法上の会計監査人(受委託関係)」とは別に、「金商法に基づく監査人(受委託関係ではない)」が存在するが、実質的に同一の監査法人が役割を果たしている

監査人からの修正依頼を受け入れなかった場合

実質的には「意見不表明」になる
「限定付き適正意見」「不適正意見」が出ると上場廃止に直結するため、監査法人も慎重になっている

監査とレビューの違い

・監査
 ・会計年度に対して実施
 ・積極的な「意見」を表明
 ・リスク対応(内部統制の運用評価や実証手続)を行う
 ・保証の水準は高い
・レビュー
 ・四半期レビューなど
 ・消極的な「結論」を表明
 ・質問や分析的手続がメイン(リスク対応による監査証拠の収集は行わない)
 ・保証の水準は低い

不正リスク対応基準の導入

従来、会計不正を発見することは、会計士の責任ではなかった
(財務諸表が全体として「利用者の判断を誤らせない程度に」適正であることを保証できていればOKという理屈だった)
社会的要請により「不正リスク対応基準」が導入されたが、以前として不正摘発は会計監査の目的とはなっていない

IFRS導入後の監査

実質的に、IFRSを適用しても、海外の証券市場に上場できる訳でもないし、海外から資金調達しやすくなる訳でもない

第3章 リスクアプローチを中心とした監査の体系的な理解と対応

会計年度が4月~3月の場合
・5月:当期監査のピーク
・6月~7月:監査法人が翌期の監査計画を作る

監査リスク

・重要な虚偽表示リスク:企業側に存在するリスク
 ・固有リスク:企業環境、勘定科目の複雑性に起因する
 ・統制リスク:企業が整備運用しているコントロールの弱さに起因する
・発見リスク:監査法人側に存在するリスク
 ・発見リスク:重要な虚偽表示リスクに応じて算出できる(監査リスクを基準値以下に抑える必要があるため)

固有リスクが高い勘定科目
・引当金:見積りが必要
・売上&売掛金:不正に使われやすい
・棚卸資産:技術革新が早い業界だと評価損が生じやすい
固有リスクが低い勘定科目
・預金:通帳を見れば分かる

リスクアプローチの弱点

リスク評価(リスクの定量化)の方法論を決めることは難しい
国際ブランドでは、最も厳しい基準の監査マニュアルがあり、リスク評価にかかる文書化の量も多く、国内のみで上場している企業にとっては、過剰対応である可能性もある

重要性の種類

①重要性の基準値(財務諸表全体で許容される差異):例えば、税前利益の5%
②手続実施上の重要性(各監査手続内で許容される差異):例えば、重要性の基準値×50%~80%(MMRに応じて決める)
③明らかに僅少な虚偽表示と想定する金額(集計に含める必要すらない=パス基準):例えば、重要性の基準値×5%~10%
④特定の取引種類、勘定残高または開示等に対する重要性の基準値:①より小さくても開示すべき金額

さらに、親会社の場合、連結財務諸表としての「重要性の基準値」を定める必要がある
(子会社の「重要性の基準値」は、リスクに応じて連結財務諸表の「重要性の基準値」の60%~90%)

会計監査人と経理担当者のマインドは異なるべき
経理担当者のマインドとしては1円の差異も許容せずに処理することが必要

連結グループ各社に対する監査方針

各子会社のリスクを評価して、監査方針を3区分する
①通常の監査を行う会社
②重要または高リスクな勘定科目のみは監査を行い、他は分析的手続のみを行う会社
③分析的手続のみを行う会社
※分析的手続:推移分析や比率分析のみで、監査証拠は収集しない、簡便な手続

年間の監査スケジュール


Q1:4月~6月
Q2:7月~9月
Q3:10月~12月
Q4:1月~3月

①監査計画の立案:6月~7月に初版を作成、その後は年間を通じて更新
②Q1レビュー:7月後半~8月前半
③内部統制評価:8月~9月
④Q2レビュー:10月後半~11月前半
⑤内部統制評価の続き:11月~12月
⑥Q3レビュー:1月後半~2月前半
⑦内部統制評価の続き:2月~3月
⑧実地棚卸立会・現金有価証券実査:3月~4月
⑨期末監査:4月~5月(決算が締まり次第)
⑩内部統制評価の続き(特にFRCP):5月~6月
⑪開示資料のチェック:5月~6月
⑫監査意見の形成:5月~6月

①固有リスクの評価

・以下の項目を理解する
 ・外部要因:業界動向、関連法規
 ・事業活動:顧客、機関設計、組織構造、事業リスク、重視している業績指標
 ・会計方針
 ・継続企業の前提

・その他
 ・関連当事者との取引は、固有リスク高とみなす
 ・会計上の見積りは、固有リスク高とみなす
 ・委託業務は、固有リスク高とみなす

・内部監査人の作業、専門家の業務を利用できるかを検討する

②特検リスクの評価

・特検リスクが高い場合、内部統制に依拠できない

③統制リスクの評価

・ELC
・FRCP(全社)
・PLC
 ・ウォークスルー(1件サンプル)により、取引の開始~仕訳計上までの監査証拠(監査証跡)を収集確認する
 ・企業側で経営者評価を行っていれば、その評価結果を監査法人が利用する可能性もある
・ITGC

④リスク対応手続の立案

・財務諸表全体レベルのMMR→全体的対応
・アサーションレベルのMMR→リスク対応(運用評価手続&実証手続)
 ・運用評価手続
 ・実証手続
  ・分析的実証手続:データ分析
  ・詳細テスト:直接的な監査証拠を入手する

⑤各勘定科目アサーションの立証

財務諸表アサーション:経営者が財務諸表上で主張していること
・実在性
・網羅性
・権利と義務の帰属
・評価の妥当性
・期間配分の適切性
・表示の妥当性

例えば、実地棚卸立会時、監査人は2方向から立証を実施する(実在性&網羅性)

⑥監査意見の形成

①継続企業の前提の検討
②訴訟事件などの検討:賠償金額が合理的に見積もれる場合
③後発事象の確認:決算日以降に発生した事象
④未修正事項の集計
⑤経営者確認書の入手:未修正事項が財務諸表全体として重要な影響がない旨も記載に含む。一般的に、監査報告書と交換する。
⑥適正性の評価:財務諸表全体の分析的手続を実施して、数値を最終チェックする
⑦監査意見の決定:無限定適正意見/限定付適正意見/不適正意見/意見不表明
⑧レビューパートナー&審査部による審査
⑨監査報告書の提出

第4章 個別の監査手続の理解と対応

監査チームの構成

売上高が数百億~数千億の規模な企業の場合
・監査責任者(監査報告書にサインする者、パートナー):2名
 ・現場に出向くことはほぼない
・審査担当者(パートナー):1名
 ・現場に出向くことはない
・主査(インチャージ):現場責任者、パートナーの代行、入所後5年ぐらい
・監査補助者:5名
 ・マネージャー:管理職であるため現場に張り付くケースは少ない
 ・シニア
 ・スタッフ

会社の決算が締まると、まずインチャージが試算表を確認し、各スタッフに勘定科目を割り当て、監査手続上の留意点を伝達する
各スタッフは、会社の担当者に質問したり、資料収集したりして、担当勘定科目に対する監査手続を実施していく
監査が終盤に近付くと、各スタッフの手続がレビューされ、追加手続が指示されて、会社の担当者に追加依頼が飛ぶようになる

大手監査法人では、グローバルネットワークでの品質担保のため、詳細な監査マニュアルを整備運用している
監査マニュアルの内容はどこもだいたい同じ

分析的手続

①リスク評価手続時に実施する分析的手続

まずは、前期金額と比較する
前期金額は監査済みであり正しい数値であると立証済みであるため

可能な限り、PL項目よりもBS項目を重視する
各個別取引の金額(PL項目)よりも、勘定科目としての残高(BS項目)を検証するほうが効率的であるため

スタッフは、自身に割り当てられた勘定科目に対して、勘定科目をブレイクダウンし、前期比較表を作成し、増減内容を把握する
把握した増減内容が合理的に説明できるように、質問や関連資料依頼などを行い、検証していく
例えば、売上債権を割り当てられた場合:
・売上債権
 ・売掛金
  ・得意先別の売掛金
 ・受取手形
  ・得意先別の受取手形

分析手続は、企業側でも実施可能であるため、実施して文書化しておくと、監査報酬が安くなる

②分析的実証手続(リスク対応手続における実証手続時)

・実証手続はそもそも重要な虚偽表示を発見することが目的であるため、推定値の算定と許容範囲内外の判定を行わない監査手続は「分析的実証手続」とは呼ばない(それは単なる分析的手続で、リスク評価するための監査手続に過ぎない)

③最終段階時

実査・確認・立会

証拠力の強い手続

実査:資産の現物を確認する
・現金:現金を自社内で保有することは少なくなってきたため、重要性は低くなった。しかし、現金管理が単一の担当者のみで実施されていたり、不要に多額の現金を保有している場合は高リスクとみなす。
・預金証書&預金通帳:担保に差し入れていないかを確認する。会社が開設している口座全てに対して「確認」手続を行うため、不要口座は閉鎖するのが望ましい。
・受取手形:手形の実在性、期日超過、営業外受取手形の有無を確認する。電子記録債権への切り替えが望ましい。
・株券:自社で持たないことでリスクを下げられる。

確認:監査人が直接、金融機関や取引先に書面で問い合わせ&回答を入手する、今後は会計監査確認センター(2018/11~)への移行が進む
・金融機関:差異が発生することは通常ない。
・取引先:差異が発生することは多い(売上の計上タイミングと仕入の計上タイミングはズレるため)。売上債権については、新収益認識基準(2021/4/1~)では出荷基準が認められなくなった。

立会(実地棚卸立会)
・様々な監査証拠を得られる(棚卸資産の数量を確認するのみではない)
・棚卸手続(内部統制)を確認できる
・フロアマップなどを入手し棚卸未実施エリアを確認できる
・テストカウントを実施して網羅性/実在性を確認できる
・製品や商品の現物を見て、陳腐化や破損品を確認できる

監査証拠の入手方法

・抽出しない方法
 ・分析手続
 ・質問
・抽出する方法
 ・精査:母集団の全てを抽出する
 ・試査:母集団の一部を抽出する
  ・特定項目抽出による試査:母集団の推定は不可能
  ・サンプリングによる試査:母集団の推定が可能
   ・非統計的サンプリング:判断サンプリングなど
   ・統計的サンプリング(ランダムサンプリング)

大手監査法人は、サンプル数を理論的に決定するツールを持っている
例えば、期待件数法なら、以下の3パラメータでサンプル数が算定できる
・許容逸脱率
・予想逸脱率
・サンプリングリスク

経営者ディスカッション

監査計画フェイズにおいて、全体レベルのリスク評価手続のなかで行われる
日本でもJ-SOX(内部統制の構築運用責任は経営者にある)の導入後から、一般的に行われるようになった

・今後の経営方針
・業界動向とリスク認識
・内部統制をどのように構築運用しているか
・経営者の倫理観:コンプライアンス、開示、不正などに対する意識

必要に応じて、各領域を管掌する執行役員(担当業務責任者、CxO)とディスカッションを行う

監査役等とのコミュニケーション

東芝事件(2015)を契機として導入されたKAMは、監査期間において、会計監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から選定される

内部監査人の作業の利用

会計監査の効率化のため、内部監査人の作業結果を利用することが可能(ただし、要件を満たす必要がある)
・内部監査部門のSOXチームが行った整備運用評価
・複雑な判断を伴わない実証手続
・棚卸資産の実地棚卸の立会
・金額的質的に重要性のない財務情報の内部監査

工場や支店への往査

業務プロセスと内部統制を評価するために行う
棚卸立会と併せて実施する場合も多い

工場往査(生産管理プロセス)
・原価情報の収集プロセス:原材料の投入量や工員の作業時間は適時に把握されているか?
・原価計算の計算プロセス
・機械設備(固定資産)の利用状況

支店往査(販売プロセス)
・販売業務
・支店で管理している現金
・支店で管理している棚卸資産

海外子会社の監査

国内/海外を問わない基本的な考え方
・重要性が低ければ、分析的手続(対象子会社のFSを入手する)と親会社に対する質問のみでOK
・重要性が高ければ、親会社と同等レベルの手続を実施する
 ・親会社の監査人と同じファームの現地法人に依頼(大手監査法人の場合はこれ)
 ・親会社の監査人とは異なる現地法人に依頼(現地法人の監査品質に依拠できる場合)
 ・親会社の監査人が現地訪問(現地法人の監査品質に依拠できない場合)

連結財務諸表の監査

J-SOXの導入前は、連結FS作成業務プロセスは1-2人の担当者に依存したブラックボックスだった
J-SOXの導入後は、FCRP(決算・財務報告プロセス)として評価対象になり、連結会計システムも普及して、標準化されてきた

連結FSの監査プロセス
①連結範囲の検討:連結外しが起きていないか?
②親会社と子会社の監査済み個別FSの突合:子会社監査での指摘事項が親会社にも反映されているか?
③開始仕訳(前期までの連結仕訳の累計)の確認:前期までの連結仕訳に取りこぼしはないか?
④当期中の連結仕訳の確認:毎期必要な仕訳、当期特有の仕訳
⑤分析的手続の実施:特に、非支配株主持分、為替換算調整勘定(在外子会社を有する場合)については、理論値との差額と比較する
⑥連結CFの確認:間接法によりBS/PLから作成できているか?

仕訳テスト

経営者は内部統制を無効化して会計記録を改竄できるため、当該リスクに対応する監査手続として、仕訳テストを実施することになっている
年間の仕訳データを分析し、不適切な仕訳を検出する
従来、抽出条件は監査人の経験に依存していたが、近年では機械学習技術の活用が進んできている

開示チェック

開示書類が監査済みFSと整合しているかのチェック

実務上で特に問題になるのは注記(量が膨大)
監査人は、担当科目に注記が必要な事項があれば、その内容もチェックしなければならない
特に、連結財務諸表の税効果会計に関する注記などは、連結財務諸表の作成プロセスとは別に集計が必要であり、税務の知識も要求されるため、難しい
(ただし、J-SOX導入以降は、注記作成プロセスも、FCRPのひとつとして含まれて評価されるようになった)

開示書類の例
・会社法:計算書類、附属明細書
・金商法:有報、決算短信

特に留意すべき注記事項
・関連当事者:不正に利用されやすい
・セグメント情報:投資家目線で重要

監査調書の作成

一般的な調書体系
①リードスケジュール(表紙)
・対象科目の特性
・前期比較と増減理由
・注記事項
・検出事項
・結論

②分析的手続の調書
・ブレイクダウンされた勘定科目の内訳明細
・明細単位の比較や分析(回転期間など)
・立証するアサーション
・予測値の算定方法
・許容可能な予実差異
・許容できない予実差異とその理由
・結論

③詳細テストの調書:原始証憑(請求書、納品書など)との照合結果
・立証するアサーション
・母集団の定義
・サンプルの抽出方法
・エラーの定義
・結論

④証拠書類


第5章 内部統制監査対応の実務

会計監査人がICFRを考慮すべき2局面
・財務諸表監査における統制テスト:従来から
・内部統制監査:内部統制報告制度(J-SOX)の導入以降から

J-SOX導入の経緯

米国ではエンロン事件後にSOX方が導入されたが、非常に厳格であるため、そのまま日本に導入すると、ほとんどの企業が対応不可になることが予想された
そのため、負担を大幅に軽減して、日本にJ-SOX(内部統制報告制度)が導入された

J-SOX対応について陥りがちな問題

「財務報告の信頼性」の確保以外を目的にしてしまう
・例えば、与信管理規程の整備運用に問題があっても、J-SOX上は問題ない(「業務の有効性および効率性」を目的とした内部統制であるため)
・信用リスクの高い取引先に掛け売りしてしまって結果的に回収不能に陥っても、会計ルールに基づいて債権区分を行い、貸倒引当金を計上できていれば、「財務報告の信頼性」は担保できるため

財務諸表アサーションに無関係な部分までフローチャートに描き出してしまう
・アサーション(とアサーションに対するコントロール)さえ網羅できていれば、他の業務の識別は不要
・アサーションを漏らすと監査には瑕疵が残る
・業務プロセス上のリスクから洗い出そうとすると、財務報告リスクまで拾ってしまうことが多いため、常にどのアサーションと関連付いているのかをチェックしながら進める

J-SOX監査対応効率化へ向けて

①重要な虚偽表示リスク(「財務報告の信頼性」を妨げるリスク)を洗い出す
 ・そもそも取引自体が適切なチェックを受けていないかもしれないリスク
 ・チェックを受けた取引が、正しく会計システムに入力されていないかもしれないリスク(正当性):主にPLC
 ・システム上で適切に処理されていないかもしれないリスク(網羅性・正確性):主にITAC
②①に対応するコントロール(チェック体制)を洗い出す
③②と財務諸表アサーションを関連付ける
④財務諸表アサーションが網羅されているか検証する
 ・漏れているアサーションがあれば、それをカバーできるコントロールを業務プロセスに追加する

J-SOXと監査法人との協力体制

内部統制監査の範囲は、財務諸表監査における統制テストの範囲より狭い
なぜならば、以下の事情があるため
・内部統制監査:重要なプロセスのみ評価すればOK
・財務諸表監査:内部統制に依拠する業務プロセスは漏れなく統制テストしなければならない
例えば、人件費プロセスは、J-SOXの評価範囲決定では「重要なプロセス」からは除外されることが多い

しかし、内部統制監査の結果を利用することができれば、監査工数=監査報酬の削減に繋がる

第6章 IT統制監査の手続と対応

IT-ELC(IT全社的統制)

全社的な方針と手続
システム管理の方針や手続が拠点によりバラバラだと、IT-ELCは弱いとみなされる
グループ内で統合されていれば、監査対象が減らせる

ITGC(IT全般統制)

「プログラム」と「データ」について、正確性と改竄防止が担保されている必要がある

ITAC(自動化された情報処理統制)

取引データのインテグリティ
・網羅性
・正確性
・正当性

自動化された業務処理統制
・入力チェック:マスタとの突合を含むチェックを含む
・権限による画面表示の出し分け
・処理前後における件数や金額の整合性チェック(バッチトータルなど)

自動化された会計処理
・減価償却費の自動計算
・棚卸原価の自動計算
・自動仕訳
・金額の集計

IT依存マニュアル統制


第7章 監査法人との付き合い方

監査法人は何をしに来るのか

内部統制の評価
・整備状況:アサーション阻害リスクに対するコントロールが十分か
・運用状況:コントロールが有効に機能しているか

詳細テスト
・原始証憑と勘定科目残高の照合

監査法人の心証を大切に

監査法人から信頼されて監査を受けるのと、疑念を持たれて監査を受けるのでは負担も異なってくる

会計監査と税務調査の違い

税務署にとって会社は敵対関係(会社には税理士が味方する)
監査法人にとって会社はクライアント

監査法人への正しい相談の仕方

①自社内で会計基準を学習
②一般論として相談する:監査法人は独立性の観点から、個別具体的な助言はできない
③一般論としてのプロコンを自社で理解してまとめる:理解するのはあくまでも自社
④自社の理解について認識相違ないか確認する
⑤自社でどう処理するか確定させる:意思決定するのはあくまでも自社
⑥監査法人に報告する

監査法人をどうやって選ぶのか

最終的にはどの国際ブランドか?ではなく、誰の監査を受けるか?になる

大手監査法人の変化と市場の動向

IPO目的の監査の場合、監査法人にコンサルティング的な機能が求められてしまうため、独立性の観点から大手は消極的な傾向にある

第8章 監査に向けた準備の進め方

決算早期化のためには、監査で質問されるようなことには、会社側で回答を準備しておくべき
少なくとも、基本的な財務分析は事前にしておくこと

まずBS残高が正しいことを立証してから、PLは分析的手続やサンプリングで正しいことを立証する
PLでの不正はBSに影響を及ぼすため
・架空売上を計上したら、売掛金が大きくなる
・架空在庫を計上したら、棚卸資産が大きくなる
・減価償却費を未計上したら、固定資産が大きくなる
・引当金を小さく見積もったら、引当金が小さくなる

BS勘定科目に対する監査上のポイント

・現金預金:残高証明
・売上債権:残高確認、滞留債権のチェック
・棚卸資産:棚卸結果報告書、帳簿残高と実際有高の差異調整、滞留在庫・陳腐化在庫のチェック
・固定資産:取得→除却→売却、資産除去債務、計上漏れのチェック、減価償却、減損
・投資:時価評価、減損
・繰延税金資産:スケジューリング
・仕入債務:残高確認、計上漏れのチェック
・借入金:残高確認、簿外負債
・引当金:会計上の見積り、計算の方法と根拠
・純資産:PLを通さない剰余金の増減(企業再編など)

PL勘定科目に対する監査上のポイント

①分析的手続:会社の財務/非財務データから推定値を算出し、実績値と比較して、異常点を検出する
②詳細テスト:分析的手続で発見された異常点について、詳細な確認(原始証憑との照合など)を行う
PLの取引を個々に見るのは不可能

分析的手続の方法

①前期比較:前期からの増減を説明できない場合は数値ミスを疑う
・まずは、勘定科目の金額自体の比較
・次に、その勘定科目について、内訳(相手勘定など)の比較

例:売掛金が倍増する原因
・売上自体が増加した
・売上が期末日付近に集中した(期中には回収できなかった)
・期末日が休日だった
・取引サイトが長くなった

怪しい兆候
・前期と同額
・前期と大きな差異がある
・前期には計上されているのに当期には計上されていない
※当期から新たに計上が必要なものはないか?

②月次推移

③関連性
・売上と販管費
・給料と法定福利費

④オーバーオールテスト(概算テスト)
・不動産賃貸収入
・減価償却費
・支払利息

例:支払利息のオーバーオールテスト
「平均借入残高×平均借入利率=支払利息の推定値」を算出し、PLの支払利息の金額と比較する

⑤連単倍率分析
連結仕訳の誤りや、子会社FSの問題が分かる
各勘定科目に対して、「連結純利益÷親会社単体純利益」などを計算し、変動をチェックする

推定値を把握しておくのは管理部門の責務

推定値を持たずに実績値を後追いしているだけでは、管理していることにならない

会計上の見積りに関する監査対応

「会計上の見積り」について監査法人が認めてくれない理由
・会社が採用している仮定が合理的ではない
・経営者に実行する意思と能力がない


・減損会計:減損は不要か?
・税効果会計:繰延税金資産は計上可能か(妥当な利益計画になっているのか?=将来的に十分な益金が発生するのか?=回収可能か?)

会計上の論点に関する会社の見解の監査人への示し方

根拠と責任区分を明確に

「会計監査人が調書作成に使える資料を準備する」までが決算業務

・管理責任者が明確
・体系化されている(資料間が相互参照=クロスリファレンスできる)
・様式が統一されている
・作成プロセスが標準化されている
・関連資料と数値が整合している
・根拠資料が信頼できる

監査調書に合わせた体系的な資料

①試算表:監査初日に監査人に提出するもの
②リードスケジュール(勘定科目ごとの総括資料)
③勘定科目内訳書:勘定科目に対する相手勘定科目など
④詳細検討調書:詳細テスト
⑤業務プロセス検討調書:内部統制

勘定科目ごとの金額変動を説明するための根拠となる資料をあらかじめ準備し、フォルダに入れておく
(例:「固定資産担当は、日々の業務の中で、一定金額以上の固定資産の取得については原始証憑を監査対応用フォルダに格納する」のようなルールを決めておく)
監査対応の時間を限定し、監査人からの質問に即答できる人(経理部長や経理課長など)が、監査人と同じ部屋にいるようにする

監査対応態勢の整備はコンサルを利用するのも可

第9章 監査を効率的に受ける方法

・監査(監査法人)と監査対応(企業側)の共通ゴールは、正確な財務情報を開示すること
・お互いの業務を理解して配慮しないと、効率的にゴールに到達できない

監査対応チームの役割分担

監査対応チーム(経理部門)で、それぞれ誰がどの監査人と対峙するかを決め、監査チームに共有する

①パートナー:分析的手続
②マネージャ:重要な判断を伴う勘定科目の監査(減損、税効果、引当金など)
③シニア:経験の必要な監査手続(業務プロセスの監査など)
④スタッフ:比較的簡単な監査手続(BS残高など)

監査スケジュールの見直し

決算スケジュールの予実管理を行い、実績を振り返り、予定の精度を改善する

典型的な決算の遅延要因
・決算にかかる作成資料が多く無駄がある、体系的でない
・決算に直結しない作業をやっている
・ミスが多く手戻りが多い
・特定拠点の連結パッケージの提出が遅い/誤りが多い(連結パッケージの見直しや指導が必要)
・特定部門からの資料提出が遅い
・特定日に特定担当者に業務が集中している(ボトルネックになっている)

監査人のスケジュールは、一度決まると調整が難しい
(監査法人の従業員は、同時期に複数クライアントを抱えており、時間単位でアサインされているため)

監査対応できる経理部員の育成

監査報告会には、すべての経理部員を参加させるべき
若手のうちから何か役割を与えて、現場に出し、監査人とコミュニケーションを取らせる

監査で必要な資料の見直し

資料リストの管理を監査人任せにしない
本当に必要な資料の準備だけに時間を使うため
何を確認するために必要な資料なのかを監査対応チーム側でも把握し、適切な資料を準備する(場合によっては別の資料で代替してもらう)

監査手続を経理部員も理解する

監査手続を理解していないと、監査人の言われるがままに後追い準備することになってしまう(監査人の依頼に無駄があっても気づけない)

監査対応を記録する

監査担当者は交代するものであり、引継ぎの程度は様々であるため、監査法人に任せるのは危険
各期でQAシートを作成し、当期監査を行うにあたって、前期監査の資料として監査チームに共有してもらう
無駄な議論の蒸し返しを防げる

決算上の課題や問題を管理する

課題管理表や問題管理表を作成して、周知・改善する
監査人から指摘された事項が翌期にも再発すると、内部統制(経理体制)が弱いとみなされる可能性あり

数値の修正が入った場合には経理部員に周知する

工場や支店における監査対応

①各拠点の責任者が概況を説明する
②監査人が質問する
③資料をサンプリングで確認する

海外拠点における監査対応

海外拠点の経理部門はレベルが低い場合が多いため、本社経理部員が事前に助言や改善をしておくべき

監査初日にパートナーに説明する

最終的に監査が十分かどうかを判断するのはパートナーであるため、重要な会計上の論点は最初に伝え、監査法人内の審査員に相談しておいてもらう
監査の終盤にパートナーが来て、それまでの話が二転三転することは多い
そのために監査初日までに、パートナーに情報提供できるように準備しておくべき

①当期の業績
②会計上の論点と、それに対する会社の方針
③重要事項(後発事象、訴訟の状況など)
④決算発表、報告書日付の確認

パートナーを通じて要望を伝え、改善点も聞く

お互いに改善する姿勢が必要

監査上の重要な論点はすぐに監査人に伝える

新しい取引、減損の兆候など
監査法人も現場チームではすぐ結論を出せない場合もあり、審査担当パートナーや、品質管理部門の判断を仰ぐ必要もあるため

監査修正はまとめて入れる

監査チームと監査対応チームの担当者レベルのやりとりで修正してはいけない(修正が発生するたびに試算表を再作成するのは無駄)
監査チームから修正事項の指摘があった場合、マネージャクラスの監査人から一定期間分まとめて報告を受け、経理責任者が修正要否の判断を行う
修正しなくても、未修正の虚偽表示になるだけで、

監査報酬の適正化

監査報酬は、監査人のチャージ単価×投下時間で決まる

第10章 監査人の交代

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