隣の教室に漂うパラレルワールドの香り
学校の中には確実に異世界が存在していた。
現実的で実感的な空間は、自分の教室と授業で立ち入る空間だけで、それ以外の場所のほぼ全てが異質な空気を纏っていた。
隣の教室も、そのまた隣の教室も、似てるが故かどこか現実感のない場所に思えた。
上級生や下級生のクラスが並ぶ階の廊下などは、もはや立ち入りすら拒んでいる異空間に感じられ、一刻も早く自分の生活する階層に戻らねば窒息死するのではないか、とすら感じていた。
そこではどうしても視点が定まらず、人々が蠢く様が濁ったフィルターを通して網膜に映るようで、落ち着きを失う。
去年同じクラスで少しだけ想いを寄せていた(自分の定義において)女の子の姿を見つけるのだが、やはりその姿は薄ぼんやりとしていて、もはや自分と何かを共有するような関係性には無いのだと、それだけが実感としてそこにあるのだった。
僕は少しだけ呼吸が苦しくなるような感覚を覚え、階段に向かった。
そしてそのまま自分の階層に戻ることなく、薄暗い下駄箱へ向かい、靴を履き替え、校舎の外に出た。
先週までの寒さはそこには無くて、春の陽気が雪を溶かし、その水の流れに陽の光が反射して街全体が必要以上の輝きと色彩を持って飛び込んできた。
小さく深呼吸をすると、見えている全てが現実感を持ち始めて動き出し、雪解けの国道を走るバスのチェーンの音がすぐ耳元で聴こえて、とても心地がよかった。
僕はもう一度(今度は大きく)深呼吸をした。
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