緊急事態宣言下の東京で、僕らは各地の郷土菓子のおとりよせを始めた。 ただし、郷土菓子といっても高級な銘菓ではなく、各地域の暮らしのなかで親しまれてきたローカル色の強いもの。音楽でいえば有名な民謡歌手が歌った迫力満点のものではなく、道端のおばあちゃんがふと口ずさんだ鼻歌のようなもの。なんの制限もなく各地を旅しているときだって、道の駅でついつい手が伸びてしまうのは、東京では見かけることもない手作り菓子ばかりだった。 いつまで続くか分からないけれど、それぞれの郷土菓子が作られた土地について思いを馳せつつ、おとりよせ日記を気ままにアップしていこうと思っている。ひとつひとつの菓子をラップで包んでくれた方々に、いつの日かお会いできることを願いつつ。写真/大石慶子
大石慶子
大都会東京の西部に位置する武蔵野ではのどかな風景が広がり、ちょっとした旅行気分が味わえる。農家出身の筆者が掘り起こす、知られざる土着的な暮らし、唄、農の仕事や、小麦栽培記録も。
脱殼機をどこから調達するか。これが今回の一番の難関だった。今はまだ詳しく書くのはやめておくけれど、あちこち探してなんとかギリギリのタイミングで農具を貸してくれる人が現れた。1年間近く探し続けていたので半ば諦めて不貞腐れていたのだが、世の中まだまだ捨てたもんじゃないな、と自分の思い通りにならないとすぐスネて世を呪う甘えん坊根性を反省する。 【脱穀】穀物の粒を穂から取り離すこと 麦を穂から外す。たったこれだけのこと。だが大量の麦を処理しようとすると恐ろしいほど労力と時間がかか
関東の梅雨入り前に麦刈りをした。天気予報を何度も見て予想を立て、晴天日に狙いを定めて日にちを決める。最後は勘だ。この日の作業は、刈って麦束にして穂を上にして立てて、雨よけシートをかけること。 太陽の光を浴びて、土に触れて、水をガブガブ飲んで、作業を共にしてくれる相手がいて、食料になる植物を収穫するという作業は、体はヘトヘトに疲れ果てても頭はスッキリして、登頂後のような心地よい気持ちが芽生えた。 今回の麦刈りを体験して感じたことといえば、頭の中の嫌なことやモヤついてた事項に
私:「こんにちは、お世話になります。先日は麦の種を譲っていただいてありがとうございました。ちょっとご相談がありまして。今、お話ししてもよろしいですか。実は穂が出てから麦が半分以上倒れてしまっていて、これは一体どうしたらいいのでしょうか」 麦の先生Tさん:「うちの麦も八割は倒れてますよ。原因はなんだかわかりません。まあどうしようもないので、これはこのままで穂が赤くなるまで置いておくしかないでしょう」 私:「倒れているのはそのままでいいんですね、なるほど。それと麦刈りの後、乾
11月9日、種を蒔いた翌日。大雨が降った。外出中の私の代わりに父が麦畑の様子を見に行き、電話をくれた。「種に土をかけた部分がほとんど雨で流れてしまい、種がむき出しになっている。これじゃあ鳥に食われちまうよ」。 翌日になって雨が上がり、朝から晴天だった。午後には大雨でぐちゃぐちゃだった土も乾き、今が土かけ作業をするチャンスだ。慌てて車を飛ばして畑に駆けつけた。麦畑には早くも鳩が二羽、美味しそうに種をついばんでいた。この時、どこにでもいるごくごく普通のグレーの鳩がクルッククルッ
ダダダダダッとけたたましい機械音が住宅街に鳴り響く。耕運機に乗って畑にやってきた父は、なぜかちょっと得意気、なんならドヤ顔。特殊な乗り物を運転するという行為とは、どこかテンションが上がるものなのか。 耕運機は畑から離れた納屋にあるので、父が取りに行ってくれていた。小麦を蒔くにあたり実際の作業は、いつの間にか父が総監督になり、以下の手順を決めた。 1. 鉄棒(テントのペグのようなもの)を畑の端に刺し、縄を引き反対側にも刺す。条(作物を植える列)の間隔を決めて行く。 2.
今回小麦を作る土地である東京郊外のまち、小平。ここは武蔵野の真っ只中に位置する。海も山も近隣にはない。武蔵野とは今では武蔵野市のことと思われる方も多いかもしれないが、その範囲はより広く、西北は入間川、東北と東は荒川(隅田川)、南は多摩川によって限られた台地エリアのことを指す。 現在の小平は都心部に通勤するサラリーマン世帯が多く住むベッドタウンとして栄えているが、農地が点々と残り、地元の人しか知らない土が露出した細く古い農道は、今でも現役で使われている。その小道を歩いてみ
何かができそうな気がして強烈に欲がむくむくと湧いてきた。 自分で小麦を作りたい。 先日、自然農法で有名な明石農園に見学に行った経験がいい影響を与えてくれた。父の畑もあるんだし、ただ頭の中でこねくり回しているだけよりは、実際に土に種を蒔いたらいいんじゃない?そしたらできるんじゃない?祖父母は同じ場所で小麦を作っていたわけだし。多分、できるでしょ。私は一人で無謀な計画を考える時が一番燃える(&萌える)癖がある。 そもそも、なぜ小麦なのか。 本当のことをいうと、今の先の見通しが
原材料:小麦粉、小豆、砂糖 製造:小平市在住のまんじゅう名人 販売:なし まんじゅうはコンビニでも買える、都市生活者にとっても気軽に購入できる身近な和菓子だ。 皮は膨らし粉が入った小麦粉、中のあんこは小豆で、ふっくらした蒸したものが一般的によく見かけるタイプだと思う。 小平の郷土菓子…というほどあまりメジャーではないのだけど「ゆでまんじゅう」がある。小平でも地域によっては「むしまんじゅう」と呼ぶところもある。写真は「むしまんじゅう」。作ってくださった梅室さんはそうおっしゃ
ちょっと前に飼い猫のぴょん吉の去勢手術を受けました。その記録(長い)。 今回ぴょん吉がお世話になるのは、近所の庶民的な動物病院。とても質素で、まるで離島の診療所のような極めてシンプルな建物と内装だ。先生とスタッフさんの二人体制で、スタッフさんがお休みの日は手術不可。いろんな動物病院があるもんだなあ、とついつい診察室の奥にある小さな手術室など眺めてしまう。 前回ワクチン接種で受診した際にぴょん吉が少し暴れたため、先生より「この猫ちゃんは気性が荒い」とお墨付きをいただいていた
原材料:牛乳、小麦粉、砂糖、卵、バター 製造:善菓子屋 販売:アンテナショップ 東京愛らんど https://www.tokyoislands-net.jp/shop 東京から南に約120kmに位置し、高速ジェット船に乗れば最短1時間45分で行ける島、大島。雄大な三原山の自然と温泉、黒い砂でおおわれた砂漠とビーチが楽しめる火山島だ。 私の父はかつて畜産の仕事で大島に頻繁に出張していた。おみやげの定番は牛乳煎餅と椿油だった。牛乳煎餅は原材料が牛乳、小麦粉、砂糖、卵、バター
原材料:でん粉(とうもろこし〈アメリカ産〉〈遺伝子組み換えでない〉/黄色4号、赤色106号、青色1号) 製造:種万青坂商店 販売:ラルズマート(通販はしておりません) 今日7月15日は東京ではお盆。迎え火を焚いて現世に戻ってくるご先祖様をお迎えし、気持ちよく過ごせるようにもてなし、送り火によってまた元の世界へとお帰りいただく。 東京の一部の地域では7月にお盆が行われるが、祖霊を迎える行事としては改暦後に7月開催(新暦)の地域と、8月開催(旧暦)の地域、または両方やる地域も
弟が探し出してきてくれたのは、祖父母の写真がぎっしり入ったお菓子の空き箱。そのうちの一枚が、この経年変化でセピア色になった小さくて古い写真。被写体は裸足で畑仕事中の見知らぬおじさん。これは誰?と父に尋ねるとうーんと唸りしばらく眺め、ふと記憶が蘇ったのか、ぼそりと呟いた。「おじいちゃんのお父さん」。それはつまり、私からみるとひいおじいちゃんだ。 まるで民俗学者の宮本常一や谷川健一の本に登場する人物みたいに、遠い昔の日本の農民の写真。手に持っている籠や鍬だって、もし現存していた
原材料:砂糖、白餡、りんご(青森県産)、水飴、寒天/香料 製造:上ボシ武内製飴所 販売:あおもり探検市場 https://store.shopping.yahoo.co.jp/tanken/a02-rt-15.html 2020年の夏は、青森ねぶた祭りは中止だ。大変残念である。ねぶた師を支援するクラウドファンディングも立ち上がっているようだ。 今わたしの手元には青森からお取り寄せした「金魚ねぶた」がある。中身はりんご羊羹だ。 ねぶたというと勇壮な武者等を模った巨大な灯
原材料: 水飴(国内製造)、砂糖、桂皮末、桂油、植物油脂 製造・販売: 株式会社山西金陵堂 http://www.kinryodo.jp/ 松魚つぶ(読み: かつおつぶ)。 「松魚」とは土佐名産のカツオのこと。 「つぶ」とは土佐の方言で飴のこと。 魚の絵が描かれたパッケージの中身は肉桂(シナモン)の飴。削る前のカツオ節の形をしている。この見た目で実は飴だなんて、魚介系のおつまみと間違えてビールと一緒に買ってしまうお父さんもいるんじゃないだろうか。 しかもこの松魚つぶ、小槌
原材料: うるち米(岩手県産)、大豆(青豆)(岩手県産)、砂糖、食塩 製造者: 荒川農産物加工組合 販売: 三陸山田がんばっぺ市場 http://www.yamada-michinoeki.com 「豆しとぎ」は主に東北地方で食されている郷土菓子だ。今回取り上げたのは岩手県下閉伊郡で食べられている「豆すっとぎ」。「すっとぎ」とは「しとぎ」がなまったもの。 そもそも「しとぎ」って一体なんなんだろう? しなやかでしっとりとした水気を含んだ、ちょっと色っぽくも聴こえる言葉。
原材料:甘しょ澱粉、大麦麦芽 製造:上ボシ武内製飴所 販売:あおもり探検市場 https://store.shopping.yahoo.co.jp/tanken/c4c5b7dab0.html 青森の母の実家から送られてきた段ボール箱の中には、いつも新聞紙で包まれた丸くて平たくて赤いブリキ缶が入っていた。昔話の絵本のような黒い力強い線で描かれたねぶた祭りの写真が印刷された、ずっしりとした重みのあるブリキ缶。 缶を開けると、中には琥珀色の水飴がびっしりと詰まっていた。そ