窓と猫の物語 「5回に1回くらい」
その家の一階の出窓には猫がいることがあって、外出するときはいつもその前を通ることにしていた。
しあわせを感じられるのは5回に1回くらいだろうか。猫は実に猫らしく、たいていは寝ていた。
窓に顔を寄せて、猫の寝姿をじっと見る。5秒…10秒…。さすがにこれ以上はやり過ぎだろう。たまたま通り過ぎる人たちから見れば「窓から家の中を覗き込んでいる人」だ(実際にそうだ)。
5回に1回の日は「ラッキー日認定」され、これから出かけるというときだったら「今日はきっといいことある」となり、もうすぐ家に着くというときだったら「今日もいい一日だった」となる。
実際がどうあれ、いや他に何があろうと、猫の姿を間近でじっくり10秒眺められたのだからいい日であることは間違いない。さあ、今日もいい日になるかな?
「パチさんがいつもしつこく覗いているからだよ。あ〜あ。」
たしかに、ときどき11秒や12秒と、少し時間オーバーして眺め過ぎたときもあった。それは認める。でも、窓の内側に目隠しを置いて覗きずらくするなんて…。そんなああ。
いや、本当はちゃんと分かっている。
普通、外から家の中を覗かれるのは嫌だ。たとえ出窓の構造上、実際には猫が寝ていると室内はほとんど見えないのだけれど、そうだとしても、いい気持ちがしないって人の方が一般的だ。分かっている。
…でも、やっぱり悲しい…。悪いのはきっとおれだ。でも…。
もう、立ち止まって窓に顔を寄せることはしません。だから、目隠しをどかしてはもらえないでしょうか。
今、その家の前を通るときは、数メートル離れて歩くようにしている。
でも、足を止めずじっと目を凝らすと、目隠しの僅かな隙間から猫の姿の一部がチラッと見えることがある。5回に1回くらい。