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長門湯本温泉って本当に生まれ変わったの?②

長門湯本温泉のエリア再生について、続きを記します。
前回はこちらです。

結論から言って、長門湯本が再生に成功しつつあるのは本当です。「成功しつつある」と書いたのは、今でも素晴らしいエリアとなっていますがまだ伸びしろがあり、ベクトルは伸びる方向だからです。

なぜ成功したのかについては、みきやさんが記事で述べられている通りです。

つまり、①危機感の共有、②人口規模、③副業人材です。詳しくはみきやさんの記事をお読みください。非常によくまとめられています。

ということで、ここでは私の考えるそれ以外の成功理由について述べます。


■ 公務員の人事ローテーション問題をクリアした


以前、公務員の人事ローテーション問題について書いたことがあります。

地域の課題、問題について危機感、使命感を有した公務員が、当事者意識と熱意を持って事業構築することはまずまずあります。
こうして走り出した事業が好循環を生み出すこともまずまずあります。

しかし、その中核的役割を担う公務員が人事ローテーションにより他部署に異動となる→新しい担当者は当事者意識も熱意もない→決まったことを淡々とこなすだけになる→「なぜやるのか」を見失った事業は形骸化してしまうといった事例は山のようにあるのです。
私が関わったものだけでも、すぐにいくつか具体的に挙げることができます。

ところが、長門湯本ではなんと!中核的役割を担っていた公務員が、退職してまちづくり会社に転職したのです。
こうすれば人事ローテーションなんて関係ないですよね。すごい力技の解決法で驚きでしたが、この方は中央省庁のキャリア官僚であり、たまたま長門市に出向していたということを知り、さらに驚きました。

■ タイミングが良く、役者が揃った


この取り組みがはじまった頃、ちょうど有力ホテルの経営者が代替わりのタイミングだったことも大きいですね。
先代はホテル同士のメンツもあり協力し合ってのエリア再生は難しかったが、比較的若い後継者は考え方が柔軟だったわけです。

しかもこの後継者たちのキャラクターがはっきりとしていて役割分担が明確です。古くからの地域のことに詳しくリーダー的存在の大谷さん(大谷山荘)、理知的で利害関係者への説明会では細部まで丁寧に説明を行う伊藤さん(玉仙閣)…皆さん非常に魅力的です。

また、先程も記したように、たまたま有能かつ熱意のある公務員(木村さん)が市役所にいたのもタイミングが良いですね。

こうした背景のもと、新たに進出した星野リゾート、仕事として関わるだけでなく投資や定住もすることで主体者となった地域外出身者の皆さんが加わり、まさに役者が揃いました。

■ 割り切ることができた


こうしてスタートしたエリア再生ですが、とはいえ大温泉街ではないので投資できる資本に限りがあります。こうした場合、投資は割り切って行う必要があります。
あれもこれも求めるのでなく集中させること、規模を野放図に大きくしないことが肝要です。

長門湯本の場合には、恩湯の再生がこれに当たります。
恩湯についてはひろさとさんの記事をご覧ください。

恩湯とは、長門湯本で古くから親しまれている公衆浴場です。この恩湯、エリア再生に取り組む中で、老朽化により建て替えの必要が生じました。

このとき、①スモールに建て替える、②礼湯を廃止するの2つを実現できたことが割り切りに他なりません。

まず、スモールに建て替えたこと。
こうした公衆浴場の建て替えにあたっては、「地域振興のためにバーンと大きく建て替えよう!」という意見になりがちです。
しかし、大きく建て替えると維持費が莫大になります。また、大きいことにより秘湯感が薄れます。古来からの神授の湯という言い伝えを感じさせるスモールさ、デザインが必要です。

次に、礼湯の廃止です。
かつて長門湯本には公衆浴場が2つありました。恩湯と礼湯です。その両方が老朽化していたのです。
この場合、両方とも建て替える選択もありますが、その場合維持費も2倍かかってしまいます。正直なところそこまでの入湯者数が見込めませんでした。

ここでスパッと割り切り、恩湯のみの建て替えに集中したことで財務的な持続可能性が高まりました。

■ 耐えた


成功を信じて耐えるのは難しいことです。
芯を食った有効な施策であっても(というかその方が)、効果が出るまでにタイムラグがあります。スタートから少なくとも数年はかかります。
インスタントに効果が出る施策に流れてしまいそうになります。温泉街という集客ビジネスだと、その誘惑はとりわけ大きかったと思います。

まして長門湯本の取り組みの場合にはコロナ禍を挟んでいます。
私も経営者ですので、キャッシュフローの不安はよく解るつもりです。キャッシュフローの不安は心を蝕みます。そのことばかりが頭を占めてしまいます。

そんな中で再生の取り組みを続け、耐えた皆さんには感服するしかありません。

■ なぜ長門湯本なのか?へのこだわり


ここでしか提供できないもの、ここで提供することに意味があるものにこだわったことは再生成功への大きな鍵です。
どこの温泉街でも取り替え可能な楽しみ方ではなく、長門湯本の地形、伝承、仕掛けだからこそ可能な楽しみ方。これを提供していることが強みです。

とはいえ、まだまだ利用される余地、余裕が残されています。その伸びしろは楽しみな一方、今後集客が高まると外部資本も本格的に進出してくる可能性は大きいでしょう。
外部資本の進出は、再生のためのさらに大きなテコにもなり得ますが、長門湯本をどこにでもある代替可能な観光地に変質させる危険性も有しています。(由布院がそうなったように)
このコントロールが今後の課題となるように感じました。

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