塀の中で教えるということ②
前回の続きです。
2023年、私たち持続未来グループに法務省から依頼がありました。「新しく作られる市原青年矯正センターで服役する比較的若年の知的障害者に、清掃などの職業教育をしたいので協力してほしい」というものです。
その後の打ち合わせで、次のことがわかりました。
・対象者は、16歳以上26歳未満で、知的障害、情緒障害、発達障害などがある男性の受刑者で、犯罪傾向が進んでいない刑期5年以下の人。
・清掃サービスの国家資格である3級ビルクリーニング技能士の取得を目指す。
・職業訓練だけを行うのではない。職業訓練に当てられる時間は週2~3回、1回あたり半日程度。
■ 具体的にどう進めるか
週2~3回行われる受刑者への指導を毎回私たちが担当するのではなく、日常的な指導は刑務官が行い、私たちは定期的な指導と指導内容の精査を行うこととしました。
しかし、日常的に指導を担当する刑務官たちには清掃サービスの技術も知識もありません。昨日まで普通の刑務官だった人たちです。
まずは刑務官=教える人に技術と知識を教える必要があります。
ということから技術と知識の習得のために、また「教える側が、受刑者の目指す資格を持っていないのはおかしい」という意見も踏まえ、指導を行う刑務官たちに3級ビルクリーニング技能士を取得してもらうことが決まりました。(3級は実務経験ゼロでも受験可能です)
この時点で8月。学科受験日は11月最終日曜日、実技試験は2024年1月の予定です。突貫工事で仕上げなくてはなりません。
3級の場合、学科は自学自習して頂くこととし、実技の特訓を3回(10月、11月、12月)行うことにしました。
■ 社内だけでは無理
しかしここでちょっと問題が。教える刑務官は3人。それに対して当社から出せる人員は、私を含めて2人。マンツーマンで特訓するには1人足りません。
誰かいないか?予算的にできれば千葉の人で。
と考えたら、ある人が頭に浮かびました。その人:Oさんは千葉在住、今はもうお仕事は引退されているのですが、まだまだ元気で何より技術は確かです。
恐る恐る打診すると、「いいバイトじゃん。やるよ」と即答。助かりました。
ありがとうOさん!これでチームメンバーが決まりました。
■ 指導する人に対する指導
実技指導する刑務官3人はまったくの素人。清掃はやったことが有っても、清掃サービスとは別物です。それなりに苦戦はしましたが、刑務官のみなさんは全員意欲的な方々でした。かなり上達は早く進みます。
10月の初回には器具を持つ手がおぼつかなかったものが、12月の最終回には「普通にやれば合格間違いなし」レベルになりました。
■ やっぱり塀の中なんだなあ
この「指導者への指導」がスタートした10月にはまだ受刑者が収容されておらず、施設内であまり不自由を感じることはありませんでした。
しかし、受刑者収容がスタートしてからは、施設内へのスマートフォン持ち込み禁止などが徹底され、厳重に管理されるようになりました。
刑務官の方々も私たちを先生として扱ってくださいます。へりくだった態度で接しています。
が、しかし、1日の指導が終了するときの号令は、大きく威嚇的な声です。まるで別人です。あの声を聞くと体がビクッとしてしまいますね。
ああ、やっぱりここは塀の中なんだと感じざるを得ません。
明日は今後の進め方について打ち合わせるため、また市原青年矯正センターへ行ってきます。
3人とも合格見込みならいいんだけど。
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