『ハード・シングス』再読~クソ食らった方がマシという時にも~
木下斉さんのVoicyで、ベン・ホロウィッツの『ハード・シングス』という本が取り上げられていました。
著者のベン・ホロウィッツは、1990年代のインターネット黎明期くらいからネット業界に生息している人です。ネットスケープ社(懐かしい!)あたりからキャリアをスタートさせ、その後時代を先取りしたようなクラウド系サービスを提供する会社を起業したり、先取りしすぎたせいか色々苦境に陥ったりしながら、自分の会社をヒューレット・パッカード社に売却してベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」を立ち上げた、いわゆる成功者です。
■ どんな本か
この本を読んだのは4~5年前くらいだったでしょうか。
たしかビジネススクールに通っていた時期に読みました。ビジネススクールに通う人間の読むようなビジネス書、しかも舞台がシリコンバレーでスタートアップ絡み、おまけに著者は成功者だと大抵はキラキラ系の成功物語だったりします。あるいは、抽象的で物事のとらえ方が一風変わった感じの自己啓発書とか。
しかし、この本は違います。著者の体験した、吐き気と悪寒が襲うような苦境についての記述が多くを占めます。
「ハード・シングス」というのは、ものすごい困難な状況、どん詰まりみたいな状況みたいなことを指す言葉です
具体的には、競争が激しい業界なので競合相手から強烈に追いまくられるとか、大口の顧客から一気に契約を やめられそうになる(売上9割減の危機!)、どうしようもなくなって資金ショートしかける、 そんな状況だから社員を解雇(アメリカ的にはレイオフ)したり…そんなことが書かれていてます。
■ クソを食らったほうがマシ
先ほど「吐き気と悪寒」と書きました。これは私の言葉ではなく、日本語版序文として訳者 小澤隆生が書いている言葉です。
私もそう思いました。
がしかし、私の感じたというか思い出す感覚はもう少し違うものもありました。
経営者をやっていると、それほど多くはないのですがごく稀にこう思うことがあります。
「こんな状況、クソを食らったほうがマシだ!」
あるいはこうです。
「クソを食えばこの状況から抜け出せるなら食ってやる!」
残念ながら、私がクソを食ったからといって眼の前のひどい苦境が改善されるわけもないので、これまでにクソを食ったことはありませんが。
しかし、本気で「食えば何とかなるなら食ってやる」と思いますし、本当に追い込まれるとトイレで「これ、苦いって言うけどホントかな?」、「人のは困るけど自分のならイケるだろ」と考えたりします。
下品で申し訳ない。が、考えるのは事実です。
■ 多くのやっても意味のないこと、ただ一つのやるべきこと
この本、こうした苦しい状況で「どうしよう?」みたいな話がいくつも書かれています。
で、私は、この本からの学びはたくさんあるんですが、しかし、煎じ詰めると次のことに尽きると思います。
まず一つ。
過去の過ぎ去ったことについて、何がいけなかったということを延々考えたり、 誰がいけなかったんだという犯人探しをしたり、こういうことをしなかったからダメだったんだと考えたり、 あるいは、世の中の状況が良くないとか今の状況がすごく理不尽だということを憤ったり文句を言ったりしても、そんなことは一切役に立たないということです。
それは憂さ晴らし程度に、娯楽としてやるんだったら別にいいと思うんですけれども、そんなことには意味がない。 少なくとも今後を切り開く仕事ではない。
やるべきことはただ一つです。
これからどうするかを考え実行することだけがやるべきことです。
これから何をやるか、どうやるか、これからのことだけに焦点を絞って、これからのことだけに全力を尽くしなさいという主張が、もうほんと首がもげるほど頷けるところです。
そうなんです。集中すべきなのはそれだけです。
再読によって、言葉によってこのことを再確認できたのは年末の大きな収穫でした。