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紅花と紫煙
「私、彼氏が出来たの」
周りの騒音が一気に遠く感じた。ひとは驚くとこうなるのか、と冷静に思っている自分がいたが、あくまでそれは自己防衛でしかないことを私は知っている。
「美散には悪いけど、もう、付き合っちゃって」
こういうときに咄嗟に責める言葉が出てきたらいいのに、私はあまりにも「いい人」すぎる。彼女に嫌われるのが嫌で、彼女が好きで、酷い言葉のひとつでも投げかけてやりたいのにそれができない。
彼女が煙草に火をつけた。私が嫌いな煙草を目の前で吸っていいのは、彼女だけと決めてから何年経っただろう。はぁ、と息を吐き出す。私が煙草を嫌いなのを知っていて、顔を背けて吸うことも、煙がこちらに来ないように手を顔と逆方向にだらんと垂らしているところも、ずっと昔からの習慣だ。優しいな、と一々感じなくなるくらいには長い間だった。今痛いほどそれを感じて、声が出なくなってしまった。
「美散のことは大好きだけど、女の子と付き合うとかやっぱりよく分からなくて。普通に友達ってことじゃだめかな」
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