悲しい結末
「友達でしょ」
「友達だよ」
それが私たちの合言葉だった。
病める時も健やかなる時も、私たちを縛る魔法の言葉は「友達」だった。
眠れない夜はいつも隣に君がいた。
1日の3/4を君と共に過ごし、2食を共にし、歯磨きや排泄の音さえも共有した。
「ダメだよ、2人きりは。」
「どうして?やましい事は何もないのに」
「だからだよ、タチが悪い」
「何も起きないのに?」
「何かが起きた方が気が楽でしょう。」
「どうして?」
「嫉妬の矛先をどこにもぶつけられないのは惨めすぎる。」
あの日も確かにそうやってくだらない押し問答を繰り返し、君の惚気話を聞いて、私は大きな欠伸をしていたはずだ。
君と2人きりでどこまでも広がる赤道付近の美しい海を見ることは叶わない。友達なのに。私は女で、君は男だから。ただ、それだけの理由で。ただ、それだけの。
音信不通にしてもしてもしても、めげずに連絡をくれる君の優しさに、なんだか悲しくなった私は、ついに自分から連絡をしてしまった。
「ねぇ、怒ってる?」
「怒ってるし、呆れてるけど、もう許したよ。好きな人だから。」
突然、落とされた「好き」の2文字。
「好きな人だから」
何度も読み返し、溜息を吐く。
その言葉はあまりにも強烈だった。
彼のその言葉には、私が好きだよと笑顔を向けるのと同じくらい意味がないということを知っているのに、どうしてだろう。
会いたいとか、好きな人だからと言われて、こんなにも不安な気持ちになり、こんなにも悲しくなるのはどうしてなのか。
眠れない夜、かつてそうだったように。
良い事があった朝、かつてそうだったように。
変わろうとしている私を嘲笑うかのように、残された着信履歴。
「どうしたの?」
「ただ、話したかっただけ」
その続きをどうしても文字に起こす事ができない。どんな顔して、どんな風に返せば良いのかがわからない。3コールで出ていたはずの電話に出る勇気もない。
「そ」
対峙していれば、そんな風に穏やかな声音で背を向けて答えていただろう。
君の欲しい答えだけが読み取れなくて、君の欲しい私を演じられない愚かな私を、君はどう想うのだろうか。
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