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おかあさんに気を使う子

消え入りそうな声で話すC子ちゃんは
高校生だけど小学4年生くらいの体重しかない。

ごはんが1日1食しか食べれないのだという。


生命力がない、とはこういうことを言うのかもしれないと思った。

「食べ過ぎちゃった!」
とダイエットにいそしむくらいが標準の女子高生時期において

C子ちゃんは、あまりに対比的で
もうほとんど「霞」のようだった。

C子ちゃんが、苦しそうに胸をおさえて泣いていたのは

明日から始まる夏休みの前の集会の最中で
校長先生が話をしていた時のことだった。

担任の先生がその様子を見つけ、彼女を外に連れ出した。
放っておくと、そのまま倒れるまでガマンするらしい。

担任の先生は男性なので、私が対応することになった。

胸の痛みは、日頃から断続的にあるらしい。病院へは行かない、と明確に言うので
まず、保護者の方にお迎えに来てもらうことになった。

ところが彼女は

「おかあさん、今日はおでかけしてるから…」

と、とても申し訳なさそうにしていた。


(帰りたくない理由があるのかな?)

と思ったけど、日頃から面談を行う担任の先生いわく、親子関係がすごく悪いわけではないようだ。

C子ちゃんは続けて言った。

あとひとつ音量ボタンを下げたら、ミュートになってしまうのではないかという声で。

「おかあさん、朝、忙しそうだった…」

学校の生徒たちに寄り添っていると、その角度から向こうに親の存在が見える。

C子ちゃんの目線で「おかあさん」を見たとき

私は、自分の子どもたちから見える自分を重ねた。

自分がいつも親の角度から物を言っていたことと

それがとてもわがままで一方的だったことに気づいて愕然としてしまった。


「おかあさん、朝、忙しそうだった」

と母親を気づかうC子ちゃんのけなげさを理解したとき

いたたまれない気持ちになった。


おそらく神経的な原因に基づく身体内部の痛みなのだという。

がんばって学校に来てみたが、たまらなくなってしまったのだ。

ふつうなら
早く家に帰ってゆっくりしたいと思うのが当然なのに。


彼女がリラックスしていられる場所はどこなのだ?


C子ちゃんは、家で自分からお母さんに話しかけることはめったにないのだと言っていた。

話せば話すほど
彼女が「忙しそうな」お母さんに、ものすごく気をつかっていることがわかった。

迎えに来たお母さんは

すごくふつうなお母さんだった。



ただ、C子ちゃんには小学生の妹がいて
その子が夏休みに入ったから、と

いかにもふつうのお母さん的に忙しそうだった。


ひといちばい繊細な子は
こんなにも気を使って

自分が痛いのを後回しにして

だから

もっと痛くなっちゃうんだよな。



明日から夏休み。

C子ちゃんが、またもし痛くなったら
声に出して伝えられますように、と願う。

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