ドーナツの匂いは思い出の匂い
パン屋に行ったあと、ショッピングモールを歩いていると、なんだかいい匂いがした。懐かしい。
なんだろう、ホットケーキみたいな匂い。
お家で焼いたホットケーキに、ハチミツをかけたみたいなかんじ。
近くにドーナツ屋さんがあったから、その匂いかもしれない。
そういえば、もう十年以上昔。まだわたしが社会人になりたての頃、会社で失敗した時や、なんとなく元気がでない時、よくそのドーナツ屋さんに行っていた。
今でこそおしゃれなカフェも増えたけど、その当時、わたしの地元には、そこくらいしかお茶をする場所がなかった。
好きなドーナツを一個だけ買って、夏はアイスティで、冬はあったかいカフェオレ。
100円セールの時期は、お昼休みにみんなで食べる分のドーナツをお土産に買って帰る。
明日のお昼に、みんなでわいわい言いながら、好きなドーナツを選ぶことを想像したら、ちょっと頑張れるかもって思ったのを覚えている。
23歳のわたしに、あのドーナツは、慣れない仕事を乗り切るための力をくれた。
あの時勤めていた職場は閉鎖になってしまって、一緒にドーナツを食べた先輩たちも、今はどこにいるのかわからない。わたしも地元を離れ、あのドーナツ屋さんも近所にないという理由で、あまり行かなくなってしまった。
久しぶりに、ドーナツ屋さんのいい匂いがして、なんだか食べたくなってしまった。
今度の休みは、久しぶりに買いに行くのもいいかもしれない。何年も食べてないけど、きっと昔と変わらず、元気がでる味がするんじゃないかと思う。