『The Days』鎮魂歌となった音声ガイド
Netflixで6月1日より配信開始の『The Days』のバリアフリー音声ガイドの原稿制作・監修をしました。今作は2011年3月11日の東日本大震災により起きた福島第一原発事故を丁寧に描いた、事実に基づく作品です。
一般的なドラマであれば、少しずつ暗い出来事から明るい兆しに上昇していく構成が主流ですが、今作は大きく違いました。最初から最後まで全部暗く厳しいのですが、多くの方に是非ご覧いただきたい内容です。
僕自身、3.11に想いを馳せることはあっても、原子力発電所の構造については何も知りませんでした。ですが、今作を観てからは知っておきたいと捉え直すことができました。インフラとして当たり前に使ってきた電気。そのエネルギーとなってきた原子力が暴走した時、誰にも対応する術がありません。映像を通して、バリアフリー音声ガイドを通して、今を見直すきっかけになるのではないかと信じて原子力の構造を調べ続けました。
ハッキリ書くと今作は観ただけでは理解が難しいです。いや、”理解できないようにしてある”と言った方が正しいかもしれません。あくまでも自分の頭で考えろ。製作者たちの警笛がつんざき、耳鳴りが止まらない感覚が物語の中で煙のように蔓延しています。(観たくなくなるかもしれませんが…笑)
画面はほとんど真っ暗です。電気がないから当たり前なのですが、暗闇の中で作業員が復旧に勤しんでいる。いつ被爆してもおかしくないという切迫した状況。命懸けというのには安っぽすぎますし、英雄譚にするのも暴力的だと感じました。男性所員の表情だけで語られる絶望は、音声ガイド制作者としても地獄の日々なのは間違いありませんでした。
今回の音声ガイド制作は特殊で初めての経験ばかりでした。何故ならば、ドラマに片寄りすぎてもいけませんし、原子力の構造に関してきちんとした知識をもたなければなりません。そして何より現地の人の声に耳をそばだてて、事実確認や裏取りも行うべきだと考えました。
そこで今回、廃炉となった福島第一原発の見学ツアーをボランティアとして何度も行ってきた湯澤魁(ゆざわ かい)さんに協力を仰ぎました。魁さんは快く承諾してくださり、現地に赴かなければわからない内容を丁寧に教えてくれました。お陰でドラマに偏りすぎずにいられました。感謝の気持ちでいっぱいです。
二ヶ月以上、原発事故の調書や関連書籍を読む毎日。寝ても覚めても原発と向き合い続けました。今考えると僕の脳みそは熱暴走でキャパオーバーを起こしていたように思います。ただでさえ読みにくい調書、それに加えて知らない単語のオンパレードで打ちのめされたのです。逃げ出したいという衝動に駆られるようなこともしばしばありましたが、不思議と闘志が湧いてきました。潜在的に無知な自分を戒めたかったのかもしれません。
バリアフリー音声ガイドとしては、かなり踏み込んだ表現をしており、その業(エゴイズム)を認めます。それによって気持ちを阻害される方がいらしたら、申し訳ございません。ですが、原子力発電所の暴走を食い止めてくださった方がいらしたのは事実です。そして事故によって起きたことを事細かに映像にして真っ向からクリエイティブをした映像製作をしたプロフェッショナルがいらっしゃいます。ならば僕もその覚悟を持つべきだと考え、苦しみながらペンを走らせました。僕としては未曾有の境地で新たなクリエイトが出来たという自信がございます。是非、確かめてみてください。
我々は原子力を使い続けるべきなのか
調べれば調べるほど答えは出てきません。日本だけの問題ではなく、複雑に絡み合った世界の歴史を紐解く必要があると思いました。だからこそ一度立ち止まり、原発再稼働・原発新設に対してきちんと悩む時間が必要だとも感じました。今作の音声ガイドを制作する前は「原発反対!」という主張を軽々しく唱えることが出来ました。ですが知ってしまった今は違います。原発によって助けられた土地もあります。原発によって豊かな生活を送ることが出来た方、辛い現実から救われた人たちも知ってしまいました。強い言葉は誰かを傷付けるのだと痛感し、心に留めることが強さなのだと改めて感じます。今作で歩みを止め、一緒に考えてくださる仲間が出来ることを信じています。孤独な船旅の中で共に考え、学び、光に向かえればと祈ります。
僕は今もこれからもこの先も悩み続けたいと思います。暮らしの中で犠牲となってきたものに対して目を逸らさずに。羽ばたく鳥に目を凝らすように。
コトノハナ 和田浩章
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