荘厳な世界の幕引きを彩る花江夏樹さんの渾身の朗読〜『火の鳥 エデンの花』音声ガイド制作を終えて〜
今このページを開いてくださった全ての方に、全力で伝えたい。
音声ガイドを知っている方も、
これまで知らなかった方も、
花江夏樹さんを推しておられる方も、
お名前だけは知っていますという方も、
どうか、騙されたと思って、
『火の鳥 エデンの花』を音声ガイドとともに観てください。
映画の幕が下りた時、壮大なスケールな物語の余韻に心を揺さぶられると共に、これまでに出会った事のない花江夏樹さんの新たな一面に出会い、涙を流しているであろうことをお約束します。
改めまして、『火の鳥 エデンの花』バリアフリー音声ガイドの制作を担当した和田浩章と申します。普段は島根県西部で映画館を経営しながら、バリアフリー音声ガイドを制作しております。
バリアフリー音声ガイドって何?と思われた方もいらっしゃると思います。
バリアフリー音声ガイドとは、視覚障がいの方に映像作品を届けるために、セリフや音楽の間で映し出されている画面情報を音声として提供するナレーションのことです。(まだ何となくイメージが掴めないぞ?と思われた方、音声ガイドについて興味を持ってくださった方は、手前味噌ですが、是非、以下の記事をご一読ください)
そんな私が今回ガイド制作のオファーを受けたのが『火の鳥 エデンの花』という作品です。
「火の鳥」と言えば、皆さんご存知のとおり、言わずと知れた手塚治虫先生の代表作。その壮大な世界観は今なお世界で数多くの人々を魅了し、大きな影響を与えている作品の一つです。
私もそのうちの一人であり、STUDIO4℃さんからご依頼をいただいた時は、打ち震えました。
少し自分語りをさせてください。私は幼少期から入退院を繰り返すほどアトピーが酷く、まともに学校に行くことは困難でした。重度のアトピーと言われてもあまりイメージが湧かないかもしれませんが、常に全身を包帯で巻いていないといけないと言えばその深刻さが伝わるでしょうか。
多感な時期になるとそれはいじめを助長する要素にもなり、私の人生において、辛く苦しい時期でした。藁にもすがる思いで、千葉から高知の土佐清水にある病院に入院したのは中学校3年生の時です。初めての場所と見知らぬ人々。そんな日常の中で、数少ない気晴らしとして赴いた本屋で手にしたのが「火の鳥」でした。
過去と未来を行き交う壮大なスケールの物語の全てを理解するには、当時の私の幼い頭はまだまだ及びませんでしたが、魅力的なキャラクターやコミカルな動きに思わず引き込まれ、あっという間に全編を読んでしまいました。
鳳凰編の我王、未来編のマサトなど、人間の業や欲望、様々な人生のままならなさの中で、懸命に産まれ、生き、死に、そして巡りゆく命。
「火の鳥」を読み、自分の悩みや悲しみは、悠久の宇宙から見ればほんの僅かな時の流れなのだと思うようになり、大袈裟でもなんでもなく救われたのです。その後も決して順風満帆な人生とは言えないのですが、この時「火の鳥」に出会ったことで私の中に生まれた人生観は、生きていく上で大きな指針の一つとなりました。
あれから18年。まさか自分が『火の鳥』のバリアフリー音声ガイドのオファーを頂けるだなんて思ってもみませんでしたが、そんな自分の人生にとっても非常に大きな意味を持つ作品に携わることができる。命を燃やす時が来た、と感じました。
しかしながら、今作のガイドは難産でした…。
音声ガイドは、前述のとおり、視覚に障害をお持ちの方が映像作品を楽しめるよう、セリフや音楽の隙間に映像を表現する言葉を埋め込んでいくのですが、如何せんアニメーション制作会社は精鋭クリエイティブ集団のSTUDIO4℃さん。
手塚先生の中で生み出された独自の世界観を、STUDIO4℃さんのこだわり抜かれた緻密な絵で表現された映像はどこをとっても素晴らしく、どの部分をガイドとして言葉で切り取るのか、まさにガイド制作者泣かせの作品でした。
また、SFに分類される本作は、日常生活にあふれているものばかりではなく、初めて見るような光景が画面いっぱいに広がっており、端的に言語化ができず、果たしてこれをどう言葉で表現しようか、目にすることができない人にこの感動や恍惚、新鮮味をどう伝えられるか。何十回と映像を見返しては、あれじゃない、これじゃない、と内臓をひっくり返す日々が何ヶ月も続きました。
ちなみに、今回私が最も苦しんで生み出したうちの一つが “鮮やかな膨張” という表現。
普通の日本語からするとおかしな表現ですよね。前後の音楽やSE、場面の移り変わりの中でこれしかない、と最終的に捻り出したのがこの言葉でした。果たして、まさしくそのとおりだ!と思って頂けるのか。観ていただく皆さんの評価に委ねたいと思います。どのシーンでこの言葉をあてたのか、映画館にて確認いただけたら嬉しいです。
どうにかこうにか原稿を産み落としたものの、音声ガイドの制作はそこで終わりではありません。
心を込めた血みどろの原稿を誰に読んでもらうのか…。またしても難しい壁にぶち当たりました。
当初、『火の鳥』のイメージから女性声優さんに読んでいただくことを想定していました。
しかしながら、今作の原作は望郷編。本編に登場するキャラクターに母性的な側面が際立つため、それを補完する意味で父性的な要素を取り入れてはどうかと思い至りました。
そうして、この方にやっていただきたい!と思ったのが、花江夏樹さんだったのです。
優しさと穏やかさの中で、芯のある力強さも兼ね備えた花江さんの声と表現は『火の鳥』という作品の音声ガイドを完成させる上で、私が思い描く最大級の理想形でした。
しかし、花江夏樹さんと言えば、言わずと知れた人気絶頂の声優さん。そもそもオファーを受けていただけるのか、心配がありました。無理を承知で、STUDIO4℃さんからオファーをして頂きましたが、そのまま時が過ぎ、ご多忙で難しいかな…他の候補の方を探さないと…と思っていた矢先、お引き受けいただけたとの報告を受けたのです。
私が雄叫びを上げたのは言うまでもありません。大作『火の鳥』にふさわしい音声ガイドを制作することができる、そう確信しました。
「バリアフリー音声ガイド」という初めてのジャンルの仕事、引き受けるかどうか、かなり悩んでくださったのではないかと思います。様々なお仕事の話がある中で、お引き受けいただいたことに、ただただ感謝しかありません…!
遂に『火の鳥 エデンの花』収録当日!
自分の書いた渾身の原稿。花江さんによって命が吹き込まれ、どんな作品になるのか。花江さんの到着を待つ私は、胸の高鳴りを抑えられません。
いよいよ花江さんが到着。
実際にお会いした花江さんの印象は、本当にイメージどおりの方という言葉につきます。
おそらく、花江さんに対するイメージは「穏やか」「優しい」だと思います。私自身、そんなイメージを抱きつつ、実際にお会いすると実はそうでもなかったらどうしよう…など余計なことを考えておりました。ですが、それは杞憂でした。
イメージしていたとおりの穏やかで優しげで、けれど、決して気取ることのない花江さんがそこにいらっしゃいました。簡単に挨拶を済ませて、すっとブースに入っていかれ、収録の火蓋を切る。
どのようなリズムで、テンションで、音程で読まれれば、前後の台詞や音楽に溶け込みながら、物語を奏でることができるのか。収録の中で、紡がれていく花江さんの声を聞きながら、時に花江さんの解釈や感触を確かめつつ、こちらの意図を伝え、作品を練り上げていく作業が続きました。
当初、音声ガイドの距離感に、花江さんも戸惑いがおありになったのではないかと思います。
しかし、こちらの考えを伝えながら進めていく中で、こちらの意図や想いを即座に理解し、気持ちを汲んでくださり、想いのこもった素晴らしい表現で『火の鳥』の世界を紡いでくださりました。
聞きどころを挙げたらキリがありませんが、特にコムというキャラクターに感情移入してくださったように感じました。これも是非、本編の中で注目していただければと思います。
集中した収録が続く合間の休憩時間には、同じ年頃の子どもを持つ父親同士ということで、気さくにパパトークをしてくださいました。夜泣きの大変さなどを分かち合いながら、奥様への労いを随所に感じる発言があり、メディア等で伺えるお顔そのままな印象に心が和みました。
一方、日本を代表する人気声優「花江夏樹」をその肩に背負っておられる重みからくるであろうオーラと凄みを感じてしまいました。間近で接したからこそ見える、業界の第一線で活躍されるプロの姿に尊敬の念を覚えずにはいられません。
収録の最後は、ラストを締めくくるエンディング曲の歌詞朗読。今回、曲の歌詞が英語だったため、敢えてその日本語訳を花江さんに朗読していただく、という挑戦的な試みでした。
こちらの曲を聞いてみてください。
そして、この荘厳な曲とともに花江さんの朗読が流れることを想像してみてください。
圧巻の一言に尽きます。
こちらの予想を遥かに上回る、壮大なこの映画の締めくくりにふさわしい幕引きをしてくださいました。もう一度言います。
圧巻の一言に尽きます。
幾千もの言葉を重ねるよりも、実際に映画館に足をお運びいただき、そのラストを迎えていただく以上にこの感動をお伝えする術はありませんが、敢えて言うとすれば、この朗読部分の収録が終わった瞬間、STUDIO4℃のスタッフ皆さんが誰にともなく立ち上がり、拍手が巻き起こった、ということをお伝えしておきます。
花江さんは帰り際「また音声ガイド、やりたいです!」とおっしゃってくださいました。
私の音声ガイドに対する想いを踏まえた上で、そんな言葉をくださったことは、これからまた音声ガイドに向き合い、作品を生み出そうとしていく私にとってこの上ない激励となりました。
花江さん、本当にありがとうございました!!
さぁ、まもなく、『火の鳥 エデンの花』は公開を迎え、宿木から羽ばたく時が来ます。
できる限りの言葉を尽くして、この作品とそしてそこに流れる音声ガイドの魅力をお伝えしてきましたが、何はともあれ、是非劇場に足をお運びください。(※現段階では円盤化も未定のため、劇場でしか聴く術がございません…。)
そして、どうかこの素晴らしい作品の世界をご堪能いただければと思います。そして目が見える見えないを超えた新天地、バリアフリーのバリアがなくなる、融解した音声ガイドを刮目ください。
長い文に最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
アプリはこちらからダウンロード頂けます💁♂️
【音声ガイドを聴くための準備】
〈自宅〉
アプリ「Hello!Movie」ダウンロード
↓
リストから『火の鳥 エデンの花』を選択
↓
データをダウンロードし画面をロック
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音声案内のテストを聴く
〈映画館〉
イヤホン装着(※マイク機能がついてるものをお忘れなく!)
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スマホを機内モードに
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アプリを開く
↓
テスト音声が流れ、
『NO MORE 映画泥棒』🎬🚨で停止することを確認
↓
花江さんの音声ガイドと共に映画を楽しむ✨
最後に…
「視覚障害者じゃない自分が楽しんでいいのか…」と悩まれる方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはございません。SNSで発信していただき、音声ガイドの理解を拡めることも大切な支援につながります。そしてファンの皆様と共に音声ガイド付きの円盤化を実現させるのが今の夢です。何卒よろしくお願い申し上げます。
音声ガイドディスクライバー
コトノハナ 和田浩章