好きなことを仕事にするための仕事
「自分はなんにも持っていない」と思ったきっかけは、大好きなタイ人の友達に「バンコクで一緒にゲストハウスをやらない?」と、誘われたときだった。
*
彼と出会ったのは、今から約1年半前の2016年の10月。わたしが浅草のゲストハウスで働いていた時のゲストで、確か2泊くらいしていった。夜のおでんパーティーですぐに仲良くなり、みんなでギターセッションしたのを今でも覚えてる。年がひとつしか変わらないのに、頭が良くて英語もペラペラだし、ギターがとても上手だったのがとても印象的だった。楽器が弾けるっていいなぁと思った、音楽って世界中どこでもみんなで盛り上がれるから。
帰りに、置き手紙を置いた。お返しにわたし宛にお手紙をフロントに預けてくれていた。彼はバンコクに住んでいた。わたしはその時、ベトナムに仕事で来ることが決まっていたので、「またベトナムかタイで会おうね〜」と書いた。
「世界中の人にたくさん出会いたいと思ったから」と、わたしがゲストハウスで働く理由をふと漏らした時、すごく感動してくれていた。いろんなゲストと仲良くなったけど、彼にはまた会いたいなぁと、ぼんやり思っていた。
*
わたしはベトナムに、バンコク経由で来たのでそこで再会を果たした。ここに来てからも、タイが好きだったのでタイにはよく行っていたし、彼も1度だけベトナムに遊びに来てくれた。
「自分自身もとびきり楽しくて幸せで、世界中のみんなも楽しめる場所。その場所に行ったら間違いなくハッピーな気持ちになれると、確信できる場所」
私が働いていたゲストハウスがまさにそうで、東京に住んでるのに毎週泊まりに来るゲストもいたくらいハッピーな場所だった。わたしは、海外で色んな経験をして、いつかはそんな場所を作りたいなぁ、と彼に話していた。
もちろんその“いつか”は、少なくとも1年以内ではなかった。もっと、もっと、先の話だとわたしは想像していた。
だからベトナムに来て1年がたった頃、彼に「バンコクで一緒にゲストハウスをやらない?」と言われたときは心底驚いた。
「今?」
「やりたいって、言ってたじゃん。なんで今やらないの?失敗してもいい若いうちに挑戦したほうがいいに決まっているじゃん。」
もちろんそうだけど、今?
その後、悩みに悩み、タイに2回くらい行ったし、いろいろ調べまくりの日々だった。必要な予算とかタイミングとか場所とか、どんなものを作りたいかとか色々話した。全部一致していて「じゃあ、一緒にやろうよ!!」と、説得され続けた。
「正直、経営とかお金の問題はあんまりわからない」と、わたしが言うと、
「それは僕がやるからお客さんのケアをしてくれればいいよ。それが君の得意分野でしょ?それが君のやりたいことでしょ?」と、彼は言った。
とてもワクワクした。バンコクなら世界中から旅行者が集まるから世界中の人に会えるし、わたしは日本のホスピタリティを広めたかった。タイ人なら日本人に近いホスピタリティ精神をちょっと持ってる気がする。親日だし。
*
もちろん、心底ワクワクしたけど、踏み出せなかった。
踏み出せなかったのには理由があって、自分はなにも持っていなかった。今、仕事を辞めたとしてつくったものがうまくいかなかったらどうすればいいんだ。お金がなくなって、誰かに頼らなきゃいけなくなったらいやだなぁとか、思っていた。たぶん、どうにかなったけど。
一方、彼はバンコクのIT企業で働いている優秀なプログラマーだった。話を聞く限り、ベンチャーから始まって、そこからかなり成功している会社のようだった。いつもわたしに、「好きなことを仕事にした方がいい」「やればやるほど自分が成長する仕事を選びなよ」「好きで夢中になってやっちゃうことを仕事にした方がいい」と言った。「会社のためじゃなくて、自分のために働きなよ」とも。
彼の会社はフレキシブルで、1日5時間集中して、好きな時間帯で働けばいいと言っていた。だらだら8時間働くより効率的だと。オフィスには週2回ほど行けばいいらしい。だからいつも好きなコーヒーショップで仕事をしていた。
それでもって彼は多趣味で、お酒をつくることが上手で、好きだった。でもただお酒をつくることが趣味なんじゃなくて、つくってみんなに振舞って、「楽しい空間」を創ることが好きなのだと言った。わたしの夢に近いから、だから一緒にやろうと言ってくれた。
プログラマーの仕事は、ゲストハウスをやりながら続けられる。昼間はゲストハウスでPCで仕事をしながら、万が一のためにお金を稼げる。わたしはそれをただただ羨ましがり、自分はなんにも持っていないなぁ、とぼんやり思った。
だから好きなことをやるために、自分自身でどんな場所でも稼げるものが欲しいと思った。いつでもチャンスが来た時に跳びつける準備。
好きで夜中でもついやってしまうような仕事。「まだ仕事してるの!?」と言われても、「楽しいから、やりたいからやってるんだよ」と、言えるような仕事。
*
わたしは半年前、チャンスを掴むことができなかった。わたしが、彼の英語を聞き取り間違えたのが原因。(笑)けど、彼は呆れもせずに「まあ今はいいタイミングじゃないって神様が言ってるのかも」とか言ってとりあえず今年の夏から1年間の世界一周をすることを決めたようだ。「仕事、辞めるの?」と聞いたら「辞めないよ、働きながら、世界一周する」と言っていた。
日本で、また会う約束をした。
嬉しかったのは、世界一周へ行く理由の冒頭が
「since we are taking break from guesthouse project」(ゲストハウスプロジェクトを休憩中なので)
だったこと。言葉の選び方も好きなところだ。休憩中ってことはまた再開でする気があるのだろうか。「その時」が来るまでに、"好きなことを仕事にするための仕事"を準備してたいと思う。
背伸びしなくていいくらいに、自分に自信をつけたいなぁって、思う。
少しづつ、「理想」に近づいていきたいな。
(人生迷子なので整理しました。)