【しをよむ079】サトウ・ハチロー「もうじき春よ」——きっとあなたは梅のかおりがして。

一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

サトウ・ハチロー「もうじき春よ」

石原千秋監修、新潮文庫編集部編
『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』より)

おとぎ話のようなとてもかわいい作品です。
雪解けの音に目を覚まして外に出てみたけれど、まだまだみんなは温かな寝床でぐっすり眠っていて……。
家々をまわっては「あれ?」と首をかしげるようすが浮かびます。
なんとなくその姿は漫画『よつばと!』に出てきた「つくつくぼうし」ちゃんにも似ていて。
「つくつくぼーし、つくつくぼーし、なつがおわりまーす」みたいに、
ぱたぱたとそこらを走りまわりながら「はるがきまーす」と告げているような。

それからもうひとつ思いだしたのは、
小さいころ、なぜか明け方に目を覚ましたときのこと。
もう「よる」ではなくて、でもまだ「あさ」ではなくて、
家族はみんな眠っているし、外もしずまりかえっている。
リビングの灯りはついていないけど、外からうっすらと光がさしているからこわくない。
寂しいようなわくわくするような気持ちで、町や家族が起きるのを待っていました。
「二度寝」という概念を知らなかった時代の、純粋無垢な思い出です。

「もうじき春よ」の表現でなるほどな、と感じたのは

「もうじき春よ、三月よ
 お山のをばさん どうしたの
 まだまだ 真綿のチヤンチヤンコ。」

という連。
まだまだ山の上には雪が深くて、こんもりふんわりと輪郭がまるくなっているところはかえってあたたかそう。

ところで、「もうじき春よ」を最初に読んだときから、
春を告げにきたこの子はどこの子かしら……と想像しています。
メジロやウグイスのような小鳥、それともお庭にでてきた人間の子。
「つくつくぼうし」ちゃんのような妖精(きっと梅の花の香りがすることでしょう)。

また季節がめぐったら、この子といっしょに兎や象さん、お山、お池をたずねてみたいな、とやわらかく空想をひろげています。

お読みいただき、ありがとうございました。
来週は于武陵(井伏鱒二 訳)「勧酒」を読みます。

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