Novelber 29th—君から聞こえる

「ただいまー、寒かったあ」
「おかえり。ピザまんがいい」
「……どうしてそれを」
 クシャクシャとコンビニのレジ袋が音をたてる。
 チヒロの声はほんとうに表情豊かだと思う。ふふ、と笑ってしまった。
 思わず漏れる笑みというのはどんな顔になるのか、自分自身では絶対に確認することができなくて、でも、チヒロが「いいよな」って言ってくれるから、きっといいものなんだろう。
「ま、とりあえず入って。食べながら話そ」

 しっとり、つるりとした皮に歯を立てる。コショウが効いたミートソースに、もっちりしたチーズ。
「……あふっ」
 あんまんにかぶりついたらしいチヒロがにわかに騒がしくなる。ほんわり甘い香りと攻撃力。熱いあんこのそのギャップがおかしい。

 はふはふしていたチヒロはようやく落ちついた。
「……で、なんでおれがピザまん買ってきたってわかったの」
「んー、足音」
「え?」
「わりと早い時間なのに急いでたから、今日のおみやげは早く持って帰りたいようなものなのかな、って。で、袋がガサガサいう音が聞こえないところからすると、冷めないように抱えて買ってきたんだよね。あったかくて、抱えて走ってもこぼれたり崩れたりしないものっていうと……」
「焼き芋とか、たい焼きとかかもしれないじゃん」
 すねた口調。かわいいなあ、と顔がゆるむのを我慢しきれたかどうかはわからない。
 意気揚々と推理を続ける。
「単純なことだよ、ワトソン君。決め手になったのは……、玄関を開けたときの匂いで」
「あー、そっかあ……」
 声の最後のほうはあんまんにもふ、とうずもれた。

「そっちも食べてみたいな。半分こしよ」
 返事を待たず、ピザまんを割る。うん、きれいな半円だ。みよんと伸びたチーズも特別にチヒロのほうに乗せてあげる。
「ん、はい」
 中身のつまったあんまんの半分が手渡される。……けど。
「……なんか、ちっちゃくない?」
「ちゃんとした夕飯入らなくなるだろ。ただでさえおまえ、デスクワークで運動してないんだから」
「今日の夕ご飯、なに?」
 それによっては許してやらないこともない。
「マーボー豆腐」
「やった」
「激辛」
「意地悪」
 笑い声が返ってくる。飾り気も作為もない、さっぱりした声。
「その声、好きだな」
 チヒロの返答には一瞬、間があった。
「おだてたってあんまんはやんないぞ。腹すかせてろ」
 言葉はぶっきらぼうになるけれど。チヒロの声は、やっぱり、感情豊かだ。

Novelber 29 お題「冬の足音」

※お題は綺想編纂館(朧)さま主催の「Novelber」によります。

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