【しをよむ067】高見順「われは草なり」——今は地面にロゼットを張る日々。
一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。
高見順「われは草なり」
石原千秋監修、新潮文庫編集部編
『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』より)
ここ最近の日々に春の風をもたらしてくれるような詩です。
健やかに伸びる草の気持ちを描いているから、にとどまらず。
いちばん今の私の心に残るのは
「伸びられぬ日は
伸びぬなり
伸びられる日は
伸びるなり」
です。
終わりの見えない厄災でイベントが中止・延期になり、
お店の休業や外出自粛が続くこの頃は、
世界的に「伸びられぬ日」の真っ只中なのでしょう。
こんなにも劇的に日常が変わってしまうと、
「毎年かはらず
緑なり」
と言えることがとても得難いことのように感じられます。
桜の時期と重なっていることもあり、
人はいなくても咲き誇る花の姿を想像したり、
「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ」という
道真公の和歌を思い出したり……。
たんぽぽがロゼットを作って冬の風雪をしのぐように、
今は身を低くして禍が通り過ぎるのを待つ時期なのだと思います。
これは争いや諍いとは違い、悪意のない災いですから、
近い将来にワクチンも治療法も確立して、乗り越えられると確信しています。
この詩は、次のように締め括られています。
あゝ 生きる日の
美しき
あゝ 生きる日の
楽しさよ
われは草なり
生きんとす
草のいのちを
生きんとす
願わくば、この日々に心身を枯らしてしまいませんように。
お家の中で蓄えたエネルギーを一気に解き放ち、
ぐんぐん伸びられる晴れた日を迎えられますように。
お読みいただき、ありがとうございました。
来週は吉原幸子「発車」を読みます。
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