Novelber 18th—こねこのミルクちゃん
あたし、ミルクちゃんはたった今、「出生のヒミツ」に気がついてしまった。
ミルクちゃんは昔、まるい毛糸玉だったのだ。
なにがあったかっていうと。
ユーナと遊んであげようとしたら、ユーナはむつかしい顔してこまこま手を動かしてて、ママが「だめよミルクちゃん、アミモノのじゃましちゃ」って言ってミルクちゃんをよそに持っていこうとしたからミルクちゃんはぴょいっと逃げて、それからまわりをパトロールしてたらカゴを見つけて、それがあんまりミルクちゃんにぴったりなおっきさだったから、中にはいってた毛糸玉をけちらしてすっぽり収まってやったのだ。
そしたら、あ、これ知ってる、って思って、びっくりして、ぶわあっと毛がさかだった。おめめもまんまるになっちゃった。
すっごく、すっごおく昔、ミルクちゃんは、ミルクちゃんのきょうだいたちといっしょに、こんなふうにカゴにまるくなってた。ミルクちゃんもみんなもころころの毛糸玉。
毛糸玉のミルクちゃんがおやすみしてたら、まわりがもぞもぞってうごきだして、ミィ、ミィって聞こえるようになった。だからミルクちゃんもおめめあけて、ミィ、って鳴いたの。そしたら耳がぴこってはえて、ミルクちゃんは白くてふわふわでとってもかわいいねこになったの。
それじゃ、さっきミルクちゃんがけちらした毛糸玉も、ねこなんだわ。わるいことしちゃった。
カゴのなかからちょっと頭をだすと、毛糸玉は床にころころしてた。
ごめんね、あんたたち。もどしたげるわ。
「あっ、こら、ミルク!」
ユーナがおこる。なによお、ユーナ。その子たちをそんなにひらべったくしちゃって、どういうつもり。
ユーナの手もとからのびる布にとびつくと、それははしっこからするすると毛糸にもどった。
これをまたくるくるにしてカゴに入れれば、ちゃあんとねこになれるはずよ。
でもおチビたち、しっかりおぼえておくのよ。いちばんかわいいねこは、このミルクちゃんなんだからね。
Novelber 18 お題「毛糸」
※お題は綺想編纂館(朧)さま主催の「Novelber」によります。
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