【しをよむ077】西脇順三郎「ギリシャ的抒情詩(抄)」——意外でもないゼウスの話をまた一つ知りました。
一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。
西脇順三郎「ギリシャ的抒情詩(抄)」
石原千秋監修、新潮文庫編集部編
『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』より)
「天気」「雨」「太陽」「眼」「皿」の五つの詩が載っています。
(抄)ということはほかの詩もあるのかもしれません。
読むとじんわりとギリシャのイメージが浮かびあがってきます。
大理石、海、色鮮やかな海豚、古代の隆盛と現在の静寂が重なりあう。
猥雑さのなかに神々しさがある。
いまは朽ちた神殿に、一瞬だけ賑やかな幻が見える。
「現代」の言語感覚と古代の眼が交錯して、心地よくも不思議な印象を受けます。
このなかで私がもっとも好きなのは「雨」です。
土地に染み込んだ時間が等しく雨のベールをまとっているような。
身体を流れ落ちる雨に沿って皮膚感覚が拡がっていくような。
雨だれは上等な毛皮のようにしっとりと温かく、艶かしく。
目を閉じて、幾千年変わらない原初の感覚に身をゆだねたくなります。
「皿」も個人的に見逃せません。
舞台は古代ギリシャ、今はその名も忘れられた少年が地中海を渡る……。
Moira、Moiraだ……! とSound Horizonの楽曲を思いだして心が震えます。
忘却といえば女神レーテーですね。考察の虫が疼きます。
その他の作品も、「この概念はこの神が司って……」というのを知ればより味わいが増す気がします。
……と思って「雨」と「女神の行列」を調べてみたところ、ペルセウスの母、ダナエーが出てきました。父親は例によってゼウスです。黄金の雨に姿を変えてダナエーのもとを訪れたそう。
道理で艶かしい描写になるはずです。
言葉どおりに「雨」である「女神たち」を探すとアネモイでしょうか。
もし「ギリシャ的抒情詩」のなかにほかの作品もあるならば、それも読んでみたいです。
そうして数千年前の海辺に思いを馳せ、神話を繙き。そんな雨の休日を過ごしたいと思いました。
お読みいただき、ありがとうございました。
来週は中原中也「サーカス」を読みます。