Novelber 27th—ケーキのたね

 ななこちゃんはケーキがだいすきです。
 チョコレートケーキも、フルーツタルトも、モンブランも、チーズケーキも。
 なかでもいちばんすきなのは、いちごののったショートケーキ。

 じゅうにがつのはじめのにちようび。
 しんせきのひとがケーキをもってあそびにきてくれました。
 ななこちゃんがえらんだのは、もちろんいちごのショートケーキ。
 ケーキのうえに、ぎんいろのつぶがきらきらひかっています。
 ななこちゃんはびっくりしていいました。
「あっ、ケーキのたねだ!」
 りんごもメロンもぶどうも、なかのたねがそだって、おおきくなって、あまくておいしいみをつけるようになることを、ななこちゃんはちゃんとしっているのです。
 ケーキもあまくておいしいものですから、きっとたねからそだつのにちがいありません。
 ななこちゃんはいちごのショートケーキにのっていたケーキのたねを、ちいさなうえきばちにまきました。

 それから、ななこちゃんはまいあさ、あおいじょうろでケーキのたねにみずをやりました。
「はやくめがでないかなあ」
 いっしゅうかんがたって、またにちようびになりました。
 ななこちゃんのおかあさんは、ななこちゃんにききました。
「サンタさんにはなにをおねがいするの?」
 ななこちゃんはこたえました。
「あのね、ケーキのめがはやくはえますように、って」
 おかあさんはふふふ、とわらいました。

 ななこちゃんは、うえきばちにみずをやりつづけました。
 まだまだケーキのめはでてきません。
 またいっしゅうかんがすぎて、にしゅうかんがすぎて、とうとうクリスマスのまえのばんになりました。
 ななこちゃんはごちそうをたべて、うたをうたって、サンタさんにおねがいしました。
「ケーキのたねがおおきくなりますように。はやくめがでますように」

 ななこちゃんがねむるとき、ななこちゃんのおとうさんがえほんをよんでくれました。
 えほんがおわって、ななこちゃんはうとうとしながらたずねました。
「ねえ、ケーキのたね、ちゃんとおおきくなるかなあ」
「きっとおおきくなるよ。こんやはクリスマスのまほうがかかるからね」
 ななこちゃんのおとうさんはやさしくこたえました。
 ななこちゃんはあんしんしてぐっすりねむりました。

 つぎのひのあさ。クリスマスです。
 ななこちゃんはいえじゅうのだれよりもはやおきして、うえきばちをみにいきました。
 うえきばちには、ちいさなきがはえていました。ぎんいろのみがいくつもなって、あさのひざしにひかっています。
 ななこちゃんはうえきばちにかけよりました。

 きにみえたのは、うえきばちにたてられたスレーベルでした。したのほうには、ななこちゃんがにぎれるくらいのもちてがあって、うえのほうには、クリスマスツリーのかざりのようにぎんいろのすずがぐるりとついています。
「あれ、ケーキじゃないのかな」
 ななこちゃんはすこしがっかりしましたが、すぐに、スレーベルのねもとのあかいカードにきがつきました。
 カードにはこうかいてありました。
「すずをさんかいならしてごらん」

 ななこちゃんはカードにかいてあるとおりに、スレーベルのもちてをにぎって、シャン、シャン、シャン、とさんかいならしました。
 しばらくすると、どこからかリン、リン、リン、とおとがかえってきました。
 ななこちゃんはまたスレーベルをならしてみました。
 シャン、シャン、シャン。
 リン、リン、リン。
 またすずのおとがきこえました。
「げんかんからだ!」
 ななこちゃんはスレーベルをにぎりしめたまま、げんかんへかけだしました。

「メリークリスマス、ななこちゃん!」
 げんかんでななこちゃんをまっていたのは、しろいかみ、しろいおひげにあかいふくのサンタさんでした。
 ななこちゃんはびっくりして、ぽかんとサンタさんをみあげました。
「ことしもいいこにしていたななこちゃんに、プレゼントをもってきたよ」
 サンタさんはどこからか、おおきなしろいはこをとりだしました。
 サンタさんはしゃがみこんで、「あけてごらん」とななこちゃんにささやきます。
 ななこちゃんはどきどきしながら、はこのふたをあけました。

 はこのなかにはいっていたのは、いちごのショートケーキでした。それも、まるいままの、まるごとのケーキです。ななこちゃんはこんなにおおきなケーキをみたことがありませんでした。
 ななこちゃんはうれしくって、おどろいて、なにもいえなくなってしまいました。
 サンタさんはななこちゃんにいいました。
「まいにち、たねのおせわをしてくれたそうだね。ななこちゃんがしんせつで、いいこで、ケーキがだいすきだと、そのたねたちからおしえてもらったんだよ」
 サンタさんがスレーベルをゆびさしました。
 ななこちゃんは「うん」とうなずきました。それから、とっておきのないしょばなしをするみたいに、サンタさんのみみにむかっていいました。
「あのね、あのぎんいろのたね、ケーキのたねだとおもってたの。でもほんとうは、すずのたねだったんだね!」

Novelber 27 お題「銀の実」

※お題は綺想編纂館(朧)さま主催の「Novelber」によります。

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