デイケア鳥クロニクル
【デイケア鳥クロニクル】~村○春樹風味~
僕が「彼女」と出会ったのは、ある暖かい春の日の事だった。
僕は唐突に話しかけられた。
「ちょっと君、これが何の種類の鳥だか判るかな」
「どうせ鳩の話だろう」とためしに僕は言ってみた。
言うべきではなかったのだ。
そこには油に塗れて疲れた顔をした「彼女」が居た。
「キジバトですね。顔が土鳩と違いますから。」僕は事もなげに言った。
「飛べないみたいだ、さっきからずっとそこに居るんだ」
おそらく機械油のプールに落ちたのだろう。
放っておいたら飛べないまま、悪くすると野良猫に襲われるかもしれない。
一般的には、それが自然の摂理だ、人間がどうこうするもんじゃない。
助けるなんて偽善だと言われるだろう。
しかし一般論を並べても、人はどこへも行けない。
「やれやれ」僕は彼女を家に連れて帰り、洗ってやることにした。
僕は洗面台のボウルにたっぷりとお湯を張り、そこへ食器洗い用の洗剤をたらした。彼女を抱きかかえ、ゆっくりとお湯に入れる。
丁寧に翼を広げ、洗剤をスプレイしてやる。
かちかちに固まった羽毛を、指の腹を使って根気強くほぐす。
こうして彼女を洗い終わる頃には、綺麗だったお湯はすっかり濁り、
幾ばくかのスラッジがボウルの底に溜まっていた。
僕はびしょ濡れになった彼女をウエスでしっかりと拭き、
ドライヤーで念入りに乾かした。
彼女は驚くほど大人しかった。
段ボール箱の中で呆然とされるがままにしていた。
「まるでデイサービスみたいだ」僕は苦笑いした。
ひとつ違ったのは、彼女は僕が与えた水や餌を全く受け付けない事だった。
野生の生き物は人間に飼いならされることはない。と、知り合いが言ってたっけ。僕はぼんやりとそんな事を考えた。
完璧なデイサービスなどといったものは存在しない。
完璧な絶望が存在しないようにね。
〜鳩写真集〜
最後に
思春期と青年期の間には、
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」と思い悩む時期があり、
俗にこれを村上春期と言います。
…嘘です。
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