うそつき

「ねえねえ、見て。赤い糸」
「赤い糸って、、、ば-か、お前そんな年?」
「うわ、最低〜。女子に" そんな年? "とか言う奴はモテないんだよ」
「、、、いいよ、モテなくて。お前だけいれば」

う そ つ き

「は、、、ははっ。ドキッとするじゃん、うまいなあ」
「本当だよ」

う そ つ き

「あ、待って。タオル、洗濯機に入れてこなきゃ」
「いいよ、後で」
「でも、、、あっ」
「可愛い。好きだよ」

う そ つ き

あなたの好きな人はわたしじゃないでしょ?
あなたが好きなのはあの子でしょ?
やめてよ、期待しちゃうから。やめて。

「、、、うん」

" 好き "って言葉は便利だ。
そして、ずるい。
わたしは結局今日も流される。

「けん、起きて」
「、、、ん-」
「ほ-ら!遅れるよ?」
「うん〜、、、」

起きる様子のない健を見ながら、昨夜の事を思いだす。

あ、小指の" 赤い糸 "消えてる。
ていうか" 赤い糸 "って、、、我ながら少女趣味で笑える。

昨夜、テ-ブルに転がってたリップで何となく描いた" 赤い糸 "。

「、、、ま、そりゃあんなの擦れたら消えるよね」

そう呟いてバスル-ムに向かう。
鏡に映る自分を見て" そんな年? "と言われたのを思いだす。
24歳、確かにそろそろ将来を考えないといけない。
結婚してたり母親になってたりする同級生もたくさんいる。
でも、わたしはわたしなりに今の生活に満足してる。
仕事をして、休日は遊びに行ったり勉強したり充実してる方だと思う。

でも、、、

「あ-、だめだ。よくない」

" でも "の先を考えそうになって慌てて思考を放棄した。

-ジャ-、、、

顔を洗って化粧水をつけて、、、
いつも通り" わたし "をつくる。

あとリップをつけたら終わる、その時ガチャッとバスル-ムのドアが開いた。

「あ-、いた〜。愛、おはよ」
「おはよ、起きた?、、、寝癖くん」
「ね-、俺の寝癖やばくない?愛なおして」
「え-?」
「お願い!このあと予定あるんだって〜」
「、、、デ-トでしょ?知ってるよ〜」

ちゃんと笑えてる?

「さすが愛ちゃん!お願いします!!」
「んも-、、、高くつくよ-?」

笑えてる、大丈夫。

「、、、はい、できたよ」
「さすが愛さま!サンキュ!!」
「いいえ、どういたしまして-!」
「あ、じゃあ俺行くわ」
「あ!あのさ、わたしも待ち合わせしてるんだよね、、、
だから、そこまでさ、送っていってくれない?」
「ん?ああ、いいよ。もう出られる?」
「うん」
「よし、じゃあ行くか」

-バタンッ

車に乗り込む。健の匂いがする。

「どこまで?」
「あ、春通りのマンションあるじゃん?あのマンションの先にあるコンビニまで」
「はいよ-」
「、、、健さあ、彼女と順調?」
「いやあ、、、どうだろうね。
順調だと思うけど好きかどうかは分からない。
、、、愛といる方が楽しい気がするけど。」
「、、、へえ-、そっか」
「愛は?どうなの?彼氏できたんでしょ?」
「ん?う-ん、、、まあ、順調、、、かな?」
「へえ-、そっか」

-無言の車内に流行りの曲が流れる。
多分、彼女の好きな曲なんだろうな。健は聴かないもん、こんなの。

「愛、ここ?」
「あ、うん。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
「あ、待って。もう少し先で降りていい?あそこ、彼氏待ってるから見られたくない」
「あ、まじか。じゃあ、もう1コ先行くか」
「ごめんね、ありがとう」

う そ つ き

「今度こそ到着でいいの?」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、気をつけて」
「うん、ありがとう。健もね、気をつけて。早く行ってあげて」
「お-、じゃあまた連絡するわ」
「うん、またね」

健の車を見送ってコンビニまで戻る途中の角を曲がる。
人通りがほとんどない路地裏。

「、、、っ!ふっ、、、ぅう」

涙が溢れてきた。

うそつきはわたしもだ。

彼氏なんかいないし、待ってるからって言って指差した車も人も全く知らない。
そんなうそをついたのは全部全部全部、健と一緒にいたかったから。少しでも、一緒にいたかったから。
興味のない音楽もスポ-ツも全部好きなふりをした。
本当はお酒だって好きじゃないけど一緒にいる為に飲めるふりをした。
仕事で疲れてても健に誘われたら疲れてないふりをした。
1分、1秒でも長く一緒にいたかったから。
一緒にいたらそのうち好きになってくれると思ったから。

大うそつきはわたしだ。

「いつでも友だちに戻れると思ったのになあ」

意識した瞬間には遅かった。もう戻れなかった。

「、、、そろそろ着いたかなあ」
そう呟いてスマホを見る。

きっと、今頃健は昨夜のことを忘れて彼女と普通に会話して手を繋いで、、、幸せそうにしてるんだろうなあ。
わたしとは正反対の可愛い彼女。

「愛ってさ、、、化粧いつもばっちりだよなあ」
「、、、誰が厚化粧だって?」
「ちがうちがう!、、、いや、ちがくないか?」
「け-ん-!?」
「いや!薄くした方が可愛いと思うんだけどな、って話だよ!!」
「、、、は?」
「いや、愛ってさ元々綺麗そうだから薄くしても良さそうっていうか、、、キツそうに見えんじゃん!だから薄めにしたらもっと男が寄ってくるんじゃないかな-って、、、」
「はあ、、、」
「いや、俺の友だちがさそう言ってて、、、愛と仲良くなりたいけどク-ルっぽくて近づきづらいって」
「あ、あ〜、、、そういう、、、」
「やっぱ男はすっぴんとか薄い方が好きな奴多いしさ!」
「え、そうなの?」
「少なくとも俺とか俺の周りはそういう奴多い」
「え、健もなの?」
「俺もすっぴんに近い方が好きだな〜」
「へえ〜、、、まあ、健の言う事じゃなあ」
「ちょ!お前バカにすんなよ-!!」

あの時、健が言ってた" 薄い化粧の女の子 "。
わたしもそうなれていたら関係は変わってた?
真っ赤なリップじゃなくて薄いピンクのリップをつける子になっていたら関係は変わってた?
自分の貫いてるものを好きな人の意見で曲げるのってどうなの?って言う人がいるけど、もしわたしが素直に健の好みになっていたら関係は変わってた?

「健、、、けん-、、、」

こんなに好きだって思っていても健にとってわたしは友だち。ご飯を食べて、遊びに行って、セックスをする友だち。

少し気分が落ち着いて泣き腫らした目にメガネをかけてごまかして家まで歩く。

-ガチャ

「あ、洗濯しなきゃなあ」

ベッド脇にあるタオルと脱ぎっ放しのTシャツが目に留まる。

「うわ、まだちょっとタオル濡れてんじゃん。最悪」
そう呟いてタオルとTシャツを拾い上げる。Tシャツからふわっと健の匂いがする。

「洗えないなあ、どうしよう」

タオルを再び床に置いて、Tシャツを抱いたままベッドに横になる。
ベッドも健の匂いがしてまた涙が溢れる。

「次はいつかなあ」

そして健の匂いを抱いたままわたしは眠りについた。

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