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歴史はアルゴリズムを生むための学問だ

アン・ブレアの『情報爆発 初期近代ヨーロッパの情報管理術』を7割くらいまで読んだが、ああ…面白い。

5,000円はたいて購入する価値が十分にある。(さすがに勇気がいった)
中で触れられている史料や史実はさておき、物の見方捉え方で大いに参考になったのは以下3点である。

・テクノロジー(印刷術)の功績を過大評価していない
・既存概念(情報管理術の概念)が過去から存在し、今も変わらないことを証明した
・事象(情報量の増加)に対する異なる姿勢を相対的に示している

印刷術に対する評価は、『印刷革命』の言葉が象徴しているように、マーシャル・マクルーハンのようなメディア学者や、20世紀にアナール学派という大衆生活に焦点を当てる学派が中心となって盛り上がった。
「人間の情報摂取方法を革命的に変えた」「個人が本と向き合うことで個人主義的考え方を深めた」「態度変容により宗教や政治に伴った組織的囲い込みを破った」といったのがその主要な主張である。
ただ、昨今はその傾向は弱まっている。
その理由を以下4点と考えている。

・事実、データ(史料)分析が進んだこと
・テクノロジーは新旧両方(印刷物と写本)しばらく共存していたという事実がある
・新たなテクノロジー(印刷物)が商業的普及を遂げるまでにタイムラグがあった
・情報伝播の仕組みは政治、社会的影響を強く受けていた

上記の事実は印刷術のみならず、新しいテクノロジーが普及する推移全般に当てはまるのではないだろうか。
具体的にはこのような流れだ。

①情報の総量が増加する

②情報が集約・体系化され、価値が認識される

③情報へのアクセス難易度が低下し世俗化する

④情報の価値そのものが低下する

情報はデータと言ってもいいし、モノに置き換えて代替・コモディティ化する経緯ととらえても良い。
印刷術を取り巻く情報環境は以下のように推移していたと考える。

①アリストテレス的世界観、古代ギリシャ・ローマ時代の知恵が蓄積・保管される

②情報の体系化が進み、一部の学問は権威付けされる

③印刷術やシステムが普及し始め、情報へアクセスしやすくなる

④印刷商業化により淘汰が起こる

①アリストテレス的世界観、古代ギリシャ・ローマ時代の知恵が蓄積・保管される」段階においてはルネサンスが契機として分かりやすいものの、組織やコミュティの変化をも伴ってなめらかに、一部同時多発的に変化しているのがポイントだ。
テクノロジーは主体者となる人同士のつながりをも変容させる。

①アリストテレス的世界観、古代ギリシャ・ローマ時代の知恵が蓄積・保管される
組織:ヒエラルキー組織(教会)

②情報の体系化が進み、一部の学問は権威付けされる
組織:フラット組織(大学)

③印刷術やシステムが普及し始め、情報へアクセスしやすくなる
組織:目的志向の組織(書籍商、サロン)

④印刷商業化により淘汰が起こる
組織:非目的志向の組織(家庭)

話を戻すと、テクノロジーがこれらの変化を起こしたのか、変化がテクノロジーを促進したのかは最早にわとり卵問題である。
前者から語るのと後者から語るのとでは最早ポジショニングやスタイルの違いと言ってもいいかもしれない。
しかし、面白いのは各フェーズにおいて活躍しうる人間、次の時代を牽引しうる人間は必ずしも組織にフィットしている人間だけではない。

①アリストテレス的世界観、古代ギリシャ・ローマ時代の知恵が蓄積・保管される
組織:ヒエラルキー組織(教会)
代表者:開拓者(○○論者)

②情報の体系化が進み、一部の学問は権威付けされる
組織:フラット組織(大学)
代表者:専門家(聖職者、学者、編纂者)

③印刷術やシステムが普及し始め、情報へアクセスしやすくなる
組織:目的志向の組織(書籍商、サロン)
代表者:翻訳者(印刷家・パトロン)

④印刷商業化により淘汰が起こる
組織:非目的志向の組織(家庭)
代表者:労働者(一般市民・エリート)

例えば、「①アリストテレス的世界観、古代ギリシャ・ローマ時代の知恵が蓄積・保管される」段階において教科書的な歴史に残るのは教会のヒエラルキーのトップに君臨する者達(教皇など)だが、次の時代をつくっていたのは世論や一般常識と異なる人間だ。
印刷術の普及の歴史においては、「①アリストテレス的世界観、古代ギリシャ・ローマ時代の知恵が蓄積・保管される」段階と「②情報の体系化が進み、一部の学問は権威付けされる」段階を行き来する中で生まれた無神論者や地動説支持者が代表的と言えるかもしれない。
11〜13世紀ヨーロッパに大学が生まれ始め、15世紀には主要各国には権威的な大学が出そろい始める。
大学を中心にヒト・コト(情報)の移動が活発化し、さまざまな価値観を相対的に眺める視点が進むと、一般的には受け容れられていない説を再点検する者、新たな情報を付加して正当化する者が生まれる。
これがいわゆる開拓者、パイオニア、アウトローである。

企業組織に置き換えてみると、スタートアップから大企業に成長するサイクルとも言える。
私が働いている会社は「④ポートフォリオ型大企業」だが、おかれている組織としては新規事業に近いので「②メガベンチャー」もしくは「③マーケットフィット企業」と言える。
あなたの組織はどの段階に当てはまるだろうか?

①ベンチャー・スタートアップ
組織:小規模かつ一様
代表者:起業家と強力なセカンド

②メガベンチャー
組織:小規模かつ多様
代表者:感度の高いプロフェッショナル

③マーケットフィット企業
組織:大規模かつ一様
代表者:共感性の高いリーダー

④ポートフォリオ型大企業
組織:大規模かつ多様
代表者:ホワイトな労働者

余談だが、歴史を学ぶ意味のひとつは、上記のように歴史的事象から自分なりのアルゴリズム、公式、パターンを見出せることだ。
「編集する」「要約する」「まとめる」「検索する」といった動詞は写本〜印刷本の黎明期には既に誕生していたが、Googleが展望した集合知の世界は、圧倒的なデータ量と情報評価ロジックをもってこれらの動詞を発展させた試みと言える。

アルゴリズムそれ自体は正当性を検証されるものでも、共感を集めるべきものでもないので、自分さえ納得できればそれでいい。(共感も得られれば尚良い)
仕事や勉学を通じて情報を蓄積し、独自の新たなアルゴリズムをどれだけ生み出せるか?それを別の場所で応用できるか?
上記が次のサイクルを生むポイントになると思う。
なぜなら、「③情報へのアクセス難易度が低下し世俗化する」「④情報の価値そのものが低下する」は陳腐化のプロセスではなく、再び「①情報の総量が増加する」方向へ自分を向けるための精査プロセスだからだ。

最後にもう一度
①情報の総量が増加する

②情報が集約・体系化され、価値が認識される

③情報へのアクセス難易度が低下し世俗化する

④情報の価値そのものが低下する

ここまで頑張って書いたが、フリースタイルダンジョンの年末特番が見たいのでストップ。

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