ガリレオのリハビリテーション
中・高生の皆さん,「リハビリって,そんな昔(約400年前)からあったんだあ」と,そういう話ではありません.ガリレオのリハビリテーションは,皆さんが生まれる少し前,1992年のことだそうです.
皆さんのイメージどおり,リハビリテーションという語は一般に「機能回復訓練」の意味で使われます.手元の国語辞典にもそう書かれています(明鏡国語辞典第3版,最近知人から頂戴したので,御礼に宣伝).しかし,元は医学用語でもなかったようです.
上田敏先生の講演録(下記URL)から引用します.
「リハビリテーション」とは「機能回復訓練」と思われていることが非常に多いが、そうではない。「リハビリテーション」の本来の意味は、「権利・名誉・尊厳の回復」である。
ヨーロッパの中世には、「身分・地位の回復」「破門の取り消し」の意味で使われた。近代に入ると、さらに「名誉回復」「権利の回復(復権)」「無実の罪の取り消し」などの意味が加わった。(中略) さらに、人間以外についても使われ、災害後の「復興」、また「都市の再開発」などの意味で使われている。まさに広い意味の一般用語であり、決して医学用語ではない。
ガリレオは1633年に宗教裁判の判決で、地動説には「異端の疑い」があるとされ、それに従って地動説を撤回した(「それでも地球は動く」とつぶやいたと言われている)。これが約360年後、法王庁が、10年間の審査を経て、1992年に取り消し、前法王のヨハネ・パウロ2世が、ガリレオの墓に詣でて謝罪した。これがガリレオのリハビリテーション(名誉回復)である。
今、我々が携わっている、障害のある人のリハビリテーションが始まってからは100年に満たない。1917年、第一次世界大戦中のアメリカの陸軍病院に「身体再建及びリハビリテーション部門」が開設されたのが最初であるが、この場合でも、身体再建(訓練)は手段を意味し、「リハビリテーション」は社会復帰、職業復帰という目的を表していた。ここでもリハビリテーションイコール訓練では決してなかったのである。
こういう長い歴史を踏まえて考えると、「リハビリテーション」とは障害のある人の「全人間的復権」、すなわち、障害(生活機能低下)のために、人間らしく生きることが困難になった人の、「人間らしく生きる権利の回復」である。
リハビリテーションは,元の意味では,機能回復を含めた,その先を見据えたもので,その人が望む生活,したいこと,しなければならないことの実現をゴールとしていることがわかります.
機能回復という手段が目的化すると,ともすれば,いわゆるリハビリ人生を招きかねません.
コミュニケーションには必ず相手がいます.コミュニケーションの成立のために,周囲の人が,当事者と対等に果たせる役割もたくさんあります. リハビリ=機能回復訓練ととらえると,当事者だけが努力するというイメージになるかもしれませんが,当事者だけに孤独な戦いを強いることがないようにと思っています.
上田敏先生の講演録を下記で読むことができます.