小澤由嗣

言語聴覚士,県立広島大学 保健福祉学部 コミュニケーション障害学コース

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    研究,論文執筆に役立つnoteを集めています.

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県立広島大学コミュニケーション障害学コースの紹介

私が所属するこのコースではコミュニケーション障害のある“人”を支援する「言語聴覚士」(ST:スピーチセラピスト)を育成しています. 言語聴覚士養成校の中で,学科名にコミュニケーションがつくのは国内では本学だけだと思います. そこには,ことばやきこえの「症状」のみならず,こうした症状のある「人」の生活,つまりコミュニケーションに視点をおくSTを育てたいというコースの理念が表れています. 対象児・者を共感的に理解して,その人にあった支援方法を考えることは容易ではありませんが,

    • ICF 国際生活機能分類にみる構音障害(2)

      言語聴覚障害のある人を,ICFを用いて理解しようとするとき,最も重要なのは,活動(活動制限)レベルが「コミュニケーション」と定義されていることだと思います(下表). (これは,ICFにおける新たなコード化ではなく,前身の国際障害分類<ICIDH,障害を機能障害・能力障害・社会的不利の3レベルで理解する>においても,能力障害レベルには,「コミュニケーション」が対応づけられていました) このことは,失語症など言語機能(language)の障害では比較的わかりやすいのですが,構

      • CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (4)ー 事例2

        事例2は,運動低下性構音障害がある70歳代の男性です. 言語聴覚士(ST)が評定した会話明瞭度は5段階中のレベル2(時々分からない言葉がある)でした. 次の表は,会話相手(妻)と,ご本人による会話了解度,満足度の評定結果です. 会話了解度は,本人の評定値が会話相手に比べて若干低いものの,ほぼ一致していました. CPMの第3段階の面談時に,当事者が挙げた事柄も共通しており, 「大きな声で,近くで,相手の顔を見て会話するとよく伝わる」(声量,距離,相手の顔がみえる位置関係)

        • CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (3)ー 適用の実際(事例1)

          日常コミュニケーション遂行度測定は,構音障害のある人のふだんのコミュニケーションを,会話了解度(comprehensibility)という尺度を用いて共有し,障害の軽減に向けて協働していくための手段です. ここでは,その適用の実際について紹介します. 事例1 事例1は,失調性構音障害(dysarthria)がある70歳代の女性です. 言語聴覚士(ST)が評定した会話明瞭度は5段階中のレベル2(時々分からない言葉がある)でした. 次の表は,会話相手(夫)と,ご本人による会

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          了解度向上に向けた当事者との協議 ー CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (2)

          CPMでは,まず第1〜2段階で,発話障害のある人(本人)が,よく会話する相手を特定した上で,本人と会話相手の双方に個別に,会話了解度等の自己評定を依頼します. 会話了解度というスケールを用いて,当事者が普段のコミュニケーションを数値化し,言語聴覚士と共有することは,日常コミュニケーションの課題をみつける糸口となり,改善に向けた協議が進めやすくなると感じていいます. <第3段階> 問題点の詳細の協議と目標の設定ここでは,当事者による会話了解度,満足度の自己評定結果をもとに,対

          了解度向上に向けた当事者との協議 ー CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (2)

          会話了解度の測定法 ー CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (1)

          会話了解度(comprehensibility)は,コミュニケーション障害のある人の支援を考えるうえで,非常に重要な概念です(Yorkstonら, 1996).ICFの観点では,「活動制限」に焦点を当てたものと考えられます. dysarthria(運動障害性構音障害)など発話障害のリハビリテーションにおいては,一般に発話の明瞭度(intelligibility)が評価および介入効果の測定の主たる評価指標とされています. しかし,明瞭度は,発話のみ(機能障害)に焦点を当てたも

          会話了解度の測定法 ー CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (1)

          Speech と Languageの障害

          言語聴覚士(ST)が支援するコミュニケーションの障害の原因は,「ことば」と「きこえ」の機能不全です. この言語聴覚機能の不全を私たちSTは,スピーチ(speech)とランゲイジ(language)の2つに分けて考えます.それは,この2つの問題の性質と,支援・リハビリテーションの仕方が異なるからです. ある人に speech の問題があるようだ,というときには,発声や発音(構音)を生み出す身体の部位がうまく機能していない場合です.ですので,speechの問題のことを,「話しこ

          Speech と Languageの障害

          会話了解度 (コンプリヘンシビリティ)

          「コミュニケーションのものさし」でふれた,日常コミュニケーション遂行度測定(The Communicative Performance Measure:CPM)は,言語聴覚士と構音(発音)のしづらさのある人(運動障害性構音障害など)が,普段のコミュニケーションの状況を共有するための手段です. 言語聴覚士が,当事者である構音障害のある人本人と,その主な会話相手に直接,日常のコミュニケーションの状況をたずねていきます. 言語聴覚士は,構音障害の状態を検査するのに,言語訓練室で「

          会話了解度 (コンプリヘンシビリティ)

          CPIB ー コミュニケーション参加の患者報告アウトカム尺度(2)

          CPIB日本語版の作成過程CPIB(1)で紹介した 「CPIB コミュニケーションへの参加に関する質問項目バンク日本語版」の作成は,患者報告アウトカム測定尺度の翻訳および文化的適応のためのガイドライン(Wildら,2005)に沿って,次の手順で作業を進めています. 1) 翻訳許諾 2) 順翻訳(英語→日本語) 3) 順翻訳の調整 4) 逆翻訳(日本語→英語) 5) 原著者による逆翻訳のレビュー 6) 認知デブリーフィング 7) 6の結果のレビュー,翻訳終了 8) 最終報告

          CPIB ー コミュニケーション参加の患者報告アウトカム尺度(2)

          CPIB ー コミュニケーション参加の患者報告アウトカム尺度(1)

          「CPIB コミュニケーションへの参加に関する質問項目バンク」(米国のベイラー博士らが開発)は,コミュニケーション障害のある人に直接,ふだんのコミュニケーションへの参加状況について聞くための質問紙です. CPIBと患者報告アウトカム(PRO)CPIB は医療分野で普及してきたPRO(Patient-Reported Outcome:医療の利用者自身が,治療の効果=アウトカムを判定する)尺度の1つ です. PROは,医療・支援が効果的であったかどうかは,最終的に患者さん自身

          CPIB ー コミュニケーション参加の患者報告アウトカム尺度(1)

          ガリレオのリハビリテーション

          中・高生の皆さん,「リハビリって,そんな昔(約400年前)からあったんだあ」と,そういう話ではありません.ガリレオのリハビリテーションは,皆さんが生まれる少し前,1992年のことだそうです. 皆さんのイメージどおり,リハビリテーションという語は一般に「機能回復訓練」の意味で使われます.手元の国語辞典にもそう書かれています(明鏡国語辞典第3版,最近知人から頂戴したので,御礼に宣伝).しかし,元は医学用語でもなかったようです. 上田敏先生の講演録(下記URL)から引用します.

          ガリレオのリハビリテーション

          言語聴覚士の印象 ー教師か カウンセラーか

          失語症のある人は,言語聴覚士のことをカウンセラーあるいはコーチ(life coach)とみており,構音障害のある人は教師(teacher)とみている.こんな報告があります(欧米での研究より. *1  ここではパーキンソン病による構音障害). 教師が何かを教える人,カウンセラーが悩みを聞き,問題解決のための支援や助言をする人(明鏡国語辞典)だとしたら,言語聴覚士にはそのどちらの役割もあります. しかし,言語聴覚士のなかには「教師」というイメージに,なんとなく違和感を感じる人も

          言語聴覚士の印象 ー教師か カウンセラーか

          コミュニケーションのものさし

          私の研究室では現在,脳卒中などの後遺症で構音障害のある人の日常コミュニケーション(国際生活機能分類の活動・参加)の様子を,言語聴覚士が共有するための方法を研究しています. コミュニケーションを測る? ー CPM と CPIB ー ひとつは,日常コミュニケーション遂行度測定(The Communicative Performance Measure,小澤ら,2012 ; 2019)を使った研究です. もう一つは,The Communicative Participation

          コミュニケーションのものさし

          リハビリ目標の書き方ーSMARTとGAS

          目標といえば,最近はSDGs(持続可能な開発目標)が有名ですが,目標を立てるときに参考に使われるのが SMARTの頭文字です. 言語聴覚士(ST)が対象者と協働して目標を設定するときにも役立ちます. SMART GoalsSpecifc     明確な/具体的な Measurable    測定可能な/現状・変化の定量化 Achievable  達成可能な Realistic / Relevant / related         現実的/当事者にとって意味(関連)のある

          リハビリ目標の書き方ーSMARTとGAS

          小学生から大人に多い発音 ー「チ」がキに近い音になるー

          「チ」「ジ」「キ」「ギ」などを含む言葉に限って不明瞭な発音になる,相手にときどき聞き返されるという場合,それは側音化構音(そくおんかこうおん)かもしれません. 側音化構音とは側音化構音は,小学校の中学年ぐらいから成人に多い発音の習慣で,幼児期の発音の習得過程で学習したくせが続いているものです.決して珍しくはなく,ラジオのアナウンサーが側音化構音で話すのを聞いたことがあります. 一般によくみられる,はさみが「はちゃみ」「はたみ」,らっぱが「だっぱ」となるようなサ行,ラ行,カ

          小学生から大人に多い発音 ー「チ」がキに近い音になるー

          ICF 国際生活機能分類にみる構音障害(1)

          国際生活機能分類(WHO)ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は,2001年に世界保健機関の総会で採択された新たな健康観,障害観に基づく国際分類です(文献1). ICFのF,Functioning「生活機能」は,上図の心身機能・身体構造,活動,参加の3つのレベルを統合した造語で,人が「生きること」全体を示す包括概念とされています.  ICFの前身の国際障害分類(ICI

          ICF 国際生活機能分類にみる構音障害(1)