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CPIB ー コミュニケーション参加の患者報告アウトカム尺度(2)
CPIB日本語版の作成過程
CPIB(1)で紹介した 「CPIB コミュニケーションへの参加に関する質問項目バンク日本語版」の作成は,患者報告アウトカム測定尺度の翻訳および文化的適応のためのガイドライン(Wildら,2005)に沿って,次の手順で作業を進めています.
1) 翻訳許諾
2) 順翻訳(英語→日本語)
3) 順翻訳の調整
4) 逆翻訳(日本語→英語)
5) 原著者による逆翻訳のレビュー
6) 認知デブリーフィング
7) 6の結果のレビュー,翻訳終了
8) 最終報告
2の順翻訳は,日本人で,原版言語に精通する2名の翻訳者(アメリカ,イギリスで博士号取得)に依頼しました.
3では,順翻訳者が独立して作成した日本語訳をもとに,筆者らが日本語版試案を作成しました.
4では,日本語版試案を,英語を第1言語とするプロの翻訳者に依頼して,英語に翻訳しました.これは,5で日本語版が,原版と等価の概念・意味を有するかを原著者に確認してもらうための作業です.
現在は5の原著者による確認が終了し,6の認知デブリーフィングを行っています(日本語版の対象者となる人に試行し,分かりにくい項目がないか,内容の理解が適切に可能かを調査).
PROの意義 ー 酔っ払いの捜し物の挿話
CPIBの開発者の一人であるヨークストン博士(元ワシントン大学)は,PROに関する論文(2019)のなかで,次のようなエピソードを紹介しています.
ある夜,酔っ払いが道端で鍵を探していました.
通りかかった警官も一緒に探しましたがみつかりません.
警官が「本当にこの辺で落としたんですか」と尋ねると,
酔っ払いは,「いや,向こうの公園で失くした」といいます.
「では,なぜここを探しているんですか」と問われると,
「そりゃあ,ここに灯りがあるからさ」と答えました.
このエピソードを通して,ヨークストン博士は,言語聴覚士の私たちも酔っ払いと同じことをしていないか,つまり,自分の視点から見えること,既存の検査で観測できることだけを頼りに仕事をしていないか注意する必要があると述べ,当事者の視点=患者報告アウトカムの大切さを説いています.
たしかに,言語聴覚士が用いる検査は,ことばの症状,すなわち機能(障害)レベルを対象としたものが多いのが現状で,いわゆるボトムアップ・アプローチで支援内容を考えがちです.
その一方で,当事者は通常,「参加・活動」を出発点とするトップダウン・アプローチでゴールをみていると,ヨークストン博士(2001)は述べています.
この方向性の違いは,ときに患者さんとセラピストの視点のズレを生じさせるおそれがあります.
クライエント中心のケアの重要性が叫ばれるなか,CPIBのようなPROの測定ツールは,今後さらに各分野で整備され,普及していくと予測されます.
こうしたツールの活用によって,当事者とセラピストが視点を共有することで,よりニーズと希望に合致した支援を目指すことができると思います.
(了)
文献
Baylor, C., Yorkston, K., Eadie,T., et al.: The Communicative Participation Item Bank (CPIB): item bank calibration and development of a disorder-generic short form. J Speech Lang Hear Res., 56: 1190-208, 2013
Wild, D., Grove, A., Martin, M., et al.: Principles of Good Practice for the Translation and Cultural Adaptation Process for Patient-Reported Outcomes (PRO) Measures: Report of the ISPOR Task Force for Translation and Cultural Adaptation. Value in Health, 8:2, 2005
Yorkston, K., Baylor, C.: Patient-Reported Outcomes Measures: An Introduction for Clinicians. Perspectives of the ASHA Special Interest Groups, 4:8-15, 2019
Yorkston, K, et al.: Communication in Context: A Qualitative Study of the Experiences of Individuals With Multiple Sclerosis. Am J Speech Lang Pathol., 10:126-137, 2001