会話了解度の測定法 ー CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (1)
会話了解度(comprehensibility)は,コミュニケーション障害のある人の支援を考えるうえで,非常に重要な概念です(Yorkstonら, 1996).ICFの観点では,「活動制限」に焦点を当てたものと考えられます.
dysarthria(運動障害性構音障害)など発話障害のリハビリテーションにおいては,一般に発話の明瞭度(intelligibility)が評価および介入効果の測定の主たる評価指標とされています.
しかし,明瞭度は,発話のみ(機能障害)に焦点を当てたものであり(*1),言語聴覚士(ST)による支援の最終目標がコミュニケーション(活動制限,参加制約)の改善であることを考えると十分な指標とはいえません.
ここでは,会話了解度の測定法の一例を紹介します.
(*1) ICF国際生活機能分類では,発話すなわち構音検査や,単音節・単語の明瞭度検査結果は機能障害レベルの指標です.ただし明瞭度検査のうち,ST自身が評定する会話明瞭度は,活動レベルにおける「能力」(capacity:統制された条件下で発揮される高い能力)の指標と考えられます.
一方,会話了解度は,活動レベルの「実行状況」(performance)の指標と位置づけることができます.
CPM 面接の実施手順
日常コミュニケーション遂行度測定(The Communicative Performance Measure : CPM,藤田, 2006 ; 小澤ら, 2019, 2012 ; 中村ら, 2021)では,会話了解度を次の手順で,クライエントと共有していきます.
<第1段階> 主なコミュニケーション相手の特定
<第2段階> 会話了解度と満足度の評定(発話障害のある人と,主なコミュニケーション相手)
<第3段階> コミュニケーション上の問題点の協議と目標の設定
<第4段階> 会話了解度・満足度の再評定
第1段階から第3段階はインテーク面接時に実施し,STによる介入後に第4段階を行います.
介入を継続する場合には,再度第1段階もしくは第2段階からの手続きを繰り返します.
<第1段階> 主なコミュニケーション相手の特定
第1段階では,発話障害のある人(以下,本人)に,言語,コミュニケーションに関する主訴および日常よくコミュニケーションをとる相手が誰かを聴きます.
家族および家族以外(通所施設のスタッフ,職場の人など)で複数名挙げてもらいます.
そして,特に頻繁に会話をしたり,本人にとって重要なコミュニケーション相手を選んでもらいます.
<第1段階の質問例>
・普段,よく話すのはどなたですか?(よく話す人がいますか?)
・今後,コミュニケーションが必要になる相手や,人前で話す機会がありますか?
<第2段階> 会話了解度と満足度の評定
本人と主な会話相手に個別に,最近(昨日〜おとといなど)の対象者間のことばでのやりとりを振り返ってもらいます.
了解度は,すべて伝わったを「10」,全く伝わらなかったを「0」として,本人に対しては,伝えようとしたことが,会話相手にどれだけ伝わったと思うかを評定してもらいます.
一方,会話相手には本人の伝えたいことがどれだけ伝わったと思うかを評定してもらいます.
了解度の本来の定義は,この後者の「会話相手の評定による理解度」ですが,CPMの特徴は,本人と会話相手が同じスケールを用いて評定を行うところです.両者の認識はほぼ一致することも,ずれがみられることもありますが,それ自体が支援上,有用な情報になり得ます.
了解度の評定を依頼する際に,筆者らは,了解度がさまざまな要因の影響を受けることを考慮して(発話明瞭度,非言語表現,相手の状況,環境),評定しやすいように,「よく伝わったとき」(了解度高)と「あまり伝わらなかったとき」(了解度低)に分けて依頼をしています.
満足度は,現在の了解度について,とても満足しているを「10」,とても不満を「0」として評定してもらいます.
満足度については,本人,会話相手ともに,「本人」が感じている満足度を評定してもらいます.
会話了解度,満足度のスケールは,0−10の11段階としていますので,たとえば,了解度評定では,まず中間点の「5」,つまり「伝えたいことが半分ぐらい伝わる」を出発点として,それ以上か未満かを思い浮かべてもらうることから始めると,評定がより容易となるかもしれません.
了解度は,伝えたいことが何割(何%)伝わるか,という尋ね方でもいいと思います.
<第2段階の質問例>
・最近の,〜さんとのことばでのやりとりを思い出してください.
あなたの話(伝えたいこと)が,〜さんにどれだけ伝わったと思いますか?
(会話相手に対しては) 〜さんの話があなたにどれだけ伝わったと思いますか?
・すべて伝わったを10,全く伝わらなかったを0とします.
よく伝わったときでいくつですか?
あまり伝わらなかったときでいくつですか?
・その伝わり具合に,あなたはどれぐらい満足していますか?
(会話相手には) ご本人はどれぐらい満足していると思いますか?
CPM記録用紙と,了解度・満足度評定時の回答者提示用スケールを下記に添付します.
この第2段階の当事者による会話了解度,満足度評定の信頼性は,再評価法を通して高いことが確認されています.さらに,会話了解度と満足度の間に,高い相関があることもわかりました(中村ら,2021).
CPMは,このように,発話障害のある人と,主なコミュニケーション相手に(会話相手は複数設定可能),日常コミュニケーションをどう捉えているかを尋ね,数値化してもらうシンプルな方法ですが,これまでの使用経験から,次の第3段階において,当事者にしか分からない日常コミュニケーションの状況と思いを共有し,問題点について当事者が主体的に考え,行動する契機となることが示されています.
第1段階から第3段階は通常インテーク時に行うと述べましたが,私は,ケースによっては支援上,了解度の聴き取りをかなり頻繁に行っています.
また,コミュニケーション日記のような形で,1週間分の記録用紙を手渡して,当事者に一定期間,継続して,了解度を記録していただくことで,日常のコミュニケーション状況の把握に用いたり,当事者(本人,会話相手)の目標の意識化,改善に向けたスキルの実践を促しています.
<第3段階>の「コミュニケーション上の問題点の協議と目標の設定」については次回,説明したいと思います.
文献
Yorkston KM, Strand EA, Kennedy MRT: Comprehensibility of dysarthric speech:implications for assessment and treatment planning. Am J Speech Lang Pathol, 5:55-66, 1996
藤田千晶:Dysarthria患者の日常コミュニケーション遂行度の測定に関する検討.広島県立保健福祉大学コミュニケーション障害学科卒業研究論文集2005年度,116-122,2006
小澤由嗣,中村 文:日常コミュニケーション遂行度測定(CPM)の開発.ディサ―スリア臨床研究 9: 16-21, 2019
小澤由嗣:クライエントの日常コミュニケーションの自己評価を主軸に据えたSTアプローチ.ディサ―スリア臨床研究 1: 27-32, 2012
中村 文,舩木 司,長谷川 純,小澤由嗣:dysarthriaのある人を対象とした日常コミュニケーション遂行度測定の信頼性.言語聴覚研究 18: 295-305, 2021