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(3)お前らの本当に欲しいものは何だ?(短編)
俺は車を停めると、大きく深呼吸をした。手汗でハンドルがぬるぬるしていた。
これから重要な話をしなければならない……最悪の場合命に係わるため、どうしても緊張してしまう。
時刻は夜の十時を過ぎていた。俺が到着した時、そのプレハブ小屋の周囲は真っ暗だった。
すぐにライトを消し、エンジンを止めた。
明かりや音はなるべく立てない事。それが、この小屋に近づく時のルール。
胸に手を当て、も
(2)真実の間は青 ~真実の間、おまけ~(短編)
学校の友達と一緒に、僕は潰れた遊園地に来ていた。
名前は『裏野ドリームランド』。
ここには『真実の迷宮』というミラーハウスがある。僕たちの学年で、ひそかに噂になっている場所だ。
僕も別のクラスの奴から噂を聞いて、一人だと心細いから、友達を連れて行くことにした。吉原という同じテニス部の男子で、仲が良い。部活ではダブルスを組んでいる。
僕に彼女ができてからは、以前のようには遊ばなくな
(1)噂の『真実の間』(短編)
──あっ、おはようございます!
お恥ずかしい話なんですけど、桐谷先輩と薫先輩のお二人にどうしても話したいことがあって、こんな朝早くに学校に来ちゃいました。今日なら二人とも、朝練に来るだろうなと思って、こっそり待ってたんです。
いやはや、興奮冷めやらぬってやつでして……あまりにも早く着いてしまって、部室の掃除してました。あはは。
ほら見て、きれいになったでしょう? 男テニ(男子テニス部
TSUCHIGUMO~夜明けのないまち~ 15
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臭すぎる。
まるでこの狭い部屋に、残飯入りのポリバケツが置かれているかのような状態だった──しかも漬物多め。
最初は部屋のせいじゃないかと疑った。
一条と二人で廊下に出て、フロントに鍵を預けて外まで出てみた。
ボロ宿『はいがん荘』の外。見慣れたいつもの黄昏、赤紫色のまち。
特に異変はない。
外に出ても、臭いは一向に消えなかった。
「やばいやばい、やっばいっすよ。
TSUCHIGUMO~夜明けのないまち~ 14
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勇助と一条、二人がなんとなく周囲を警戒し、後ろを振り返った瞬間。
「えっ……」
異変に気づいた時には、もう手遅れだった。
先ほど倒したはずの首のない巨大カメムシが、虫らしく六本の脚で胴を支え、立ち上がっていた。
策を講じる暇もない。
首があった部分から、霧吹きのように黄色い液がばら撒かれた。
勇助と一条はとっさに顔を両腕で守ったが、全身にその液を浴びてしまった
TSUCHIGUMO~夜明けのないまち~ 10
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息切れや足の疲労、発熱が無いことに感謝しつつ、反対に、勇助はこのふざけた世界を呪った。
逃走し続けて、もう二時間になる。
背後からは未だ『フロントマン鈴木』なる顔だけの化け物が、じわじわと迫ってくる。
「お客さぁん、いい加減にしてくださいよぉ」
時折発せられるその低い声も、何度聞いたことだろう。
『ハのまち』特有のセクシーパブのヌード看板の女性の顔部分から、ちょうど重な
TSUCHIGUMO~夜明けのないまち~ 09
09
勇助は視界の左上部のダッシュゲージを気にかけながら、走っては歩きを繰り返して、『フロントマン鈴木』という名の顔面から逃げ続けていた。
黄昏《たそがれ》た昭和っぽい歓楽街の中を突き進む。
途中で幽霊らしき敵に遭遇したが、無視して走った。
このゲーム内には、しつこく追跡してこない敵もいるらしい。
その点『フロントマン鈴木』のしつこさは異常と言える。
「お客さん、勘弁してくだ