「名」 (な)
小さな産院で生まれた彼女は「由布」という名前をつけられた。
「ゆう」と読む。その名前は、国語の教師である母親が、新婚旅行先の大分県由布市で、この漢字に心を掴まれ、女の子が産まれたらつけようとずっと心に決めていた。「由」という漢字は、「由来」という単語で使われているように、「〜のごとし」「〜のようだ」という意味がある。
「布」のごとく、柔らかく、人を温かく包み込む人になりますように。
これが、私の名前に込められた由来だ。
私はこの名前が小さな頃から大好きだった。そして、大人になって、もっと、好きになっていった。
珍しい名前ゆえ、名乗るところから会話が広がる。
漢字とセットで、私を覚えてもらえることが多い。
九州出身の人と盛り上がる。
布好きさんと繋がることが多い。
シンプルで書きやすい。
人と名前がかぶらない。
たくさん理由はあるけれど、私がこの名前が好きな1番の理由は、小さな頃から、人と同じことをしたがらない、いつも自分だけの役割を探して生きようとする、そんな私にぴったりの、独創的な名前だったからだと思う。
両親は、そんなことまで見越していたのだろうか。私は本当に小さい頃から、みんなと同じことをするのが苦手だった。そしてそれが昔は苦しかったのだけど、今は自分のそんなところが特に好きだ。
エッセイストにたどり着いたのも、きっとこの名前のせいだと思う。
人は気ずかぬうちに、自分の名前に引き寄せられていっているのかもしれない。
名前は、その両親が初めてその子にプレゼントする大切な贈り物。
私は自分の娘に「布」のついた名前と、この美しくて柔らかい布を選んで、贈った。彼女が、その布をまとって自分の人生をしなやかに生きてくれたら嬉しい。
おわり
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