【夢日記】生贄

私たちは近い将来か遠い未来に、生贄になる。
あるいは、平凡な水死体に。

哀れな水死体になるためにどこか知らない場所の多分島に連れてこられた。私以外に集められた人は5人いて、全部で6人。自分含め全員若い女の子だった。

生贄のなり方を聞いたのかどっかに書いていたのか来る前に知っていたのか全く覚えてないけど、私たちはここにあるひたすらだだっ広い広場みたいな、草むらみたいな場所を歩き続けてその先にある島の反対側から出る船に乗ることになっているらしい。そして、そのときはよくわからなかったが、その土地にあるものは好きにしていいらしい。

そういうわけでとにかく私たちはそれに納得してすぐ歩き始めた。なんでそんなにすぐ納得したのか今となっちゃまるで覚えてないけど。

歩き始めてすぐの頃、私たちは違和感に気づいた。歩いても歩いても全然お腹は減らないし、疲れないし、夜も来なかった。
でも、それだけだった。
お腹が減らなくても、疲れなくても、夜が来なくても、私たちのすることは、そして未来は変わらなかったから歩き続けた。

一緒に歩いてる人たちは全員知らない人たちだったけど、いつのまにか親しみを持っていた相手もいた。いつも近くを歩いていた人、多分会話は彼女と一番したと思う。
それともう2人、それなりに話して、それなりに仲良くなれたと私は思った。向こうがどう思ってるかは知らないけど。

逆にそれだけ一緒にいても親しみは持てなかった人もいた。嫌いなわけじゃなかった。むしろ、好感は持っていた。でも、親しみは持てなかったというだけ。

彼女たち2人はいつも私たちの前を楽しそうに歩いていた。まるで踊ってるみたいに。実際踊ってるときもあった気もするけど、とにかく、広い草原とずっと晴れてる空を背に「この世の悪いことなんて何も知りません」「私たちはとっても幸せです」みたいな顔で笑っている顔。そこへどこから吹いているんだか知らない風が吹きつけて彼女たちの長い髪と揃いの裾をなびかせるさまったら、とにかく綺麗だった。
まるで絵画、それか、映画のワンシーンとでも言いたくなるような光景だった。

それでもその2人と全く話さなかったわけではない。それなりに話した。覚えてないけど、多分他愛ないことを。

そんなふうに、私たちは全員なんとなく知り合いになった。どこから来た誰なのかも結局分からずじまいだったけど。
というより、隣を歩いている人たちが、これから一緒に死ぬ人たちがどこの誰なのかなんて、全く疑問に思わなかった。

あるとき、誰かが花を食べ始めた。誰が始めたのかわからないけど、よくある、いっときの流行りみたいなものだった。花を食料と思ってみると、思ったよりたくさん咲いていた。小さい、それでいてやたらカラフルな花々。でもその広い草原には知っている花はひとつも咲いちゃいなかった。
その頃は花を探して下ばかり向いていたので、動物の骨なんかが落ちているのも見た。この世界には、動物もいたんだと思った。
思ったけど、それだけ。私たちには関係ないことだったからそのまま進んだ。

花を食べる流行が終わりかけた頃、その広大な草原には柵が生え始めた。金属製で、簡単に飛び越えられるような柵。私たちが歩いていた側と向こうを区切る柵。どっちが外なのかはわからなかった。私たちが牧草地で花を食べて暮らす家畜なのか、それとも柵の向こう側がそうなのか。
そう感じたこともあってか花を食べる流行は落ち着ついた。でもたまに花冠とかを作る子はいた。柵の向こう側にも花があると飛び越えて花を摘んで戻ってきた人もいた。食べるのをやめても、花は目についた。

そうして歩いていると、建物が見えてきた。それも一軒や二軒ではなく、結構たくさん。施設のような、大きい建物もあった。

その建物の近くまでやってくると、どういうわけか普通に人が暮らしていたが、今更その程度では驚かなかった。大きい施設のような建物は学校だった。

その土地の人間とは数人と話した。中でも記憶に残っているのは自分はカエルから生まれたのだという女の子だった。自分を産むときに死んだカエルの母を思って泣いていた。
そのときも一緒にいた一番話した彼女は、その話を聞いている間ずっとありえないとでも言いたげだった。
私は、そんなにありえないとは思わなかった。よく知らないけど、この街はそういう場所なんだろうと思った。

そこは、人が住んでいるだけあって、港なんかもあった。なんだ、私たちが来るときに乗っていた船が唯一の交通ではなかったのか、と拍子抜けした。いや、私たちって船で来たんだっけ?覚えてないけど、船で帰れるとは思っていたから、多分船で来たんだと思う。

住人たちは私たちが生贄になるために来たと知っているんだろうか?もし知らなかったら、私たちが帰らないのに気づくかもしれない。そしたら、運が良ければ死んだ後にでも地面に戻れるかも、と思った。

そうこうしているうちに集落も通り過ぎて、また元の草原に戻った。
変わったのは、あの非現実的な絵画の2人が園芸用の小さいスコップを持っていたことだった。片方が「好きにしていいって聞いてたから、拝借したの。」と笑った。

そうはいっても、彼女らは道すがらちょっと土を掘り返してみたり、花を根ごと拾ったりするばかりで何がしたくてわざわざそれを持ってきたのか、私にはわからなかった。でも楽しそうで、やっぱり綺麗だった。

そしてまた長い時間が過ぎて私たちはその島の果てに辿り着いた。何もない場所。さっきまであった草すらない、当然人もいないし、柵もない。飽きるほど見た花もなかった。いるのは私たちだけで、そこにあるのは固い土。
「花を植えましょう!」浮世離れ二人組が例の土いじり用のスコップで土を混ぜながら言った。あれよあれよというまに彼女たちはそこらに生えてる花を持ってきて私たちは順番に好きなものを選ばされた。私は青色の、やっぱり見覚えのない花を選んだ。
「これ着ましょう!」2人はセーラー服を持っていた。いつのまに、と思ったが学校から持ってきたのだと言う。「制服って着たことがないの」セーラー服は私も着たことがなかった。この歳になって制服だなんて、とも思ったけど、私たちが着ている揃いのワンピースの方がずっとおかしいかもしれないと思った。生贄の服?それとも、水死体の服?真っ白で、質素で、そんな集団は自然じゃない。
迎えを待つ生贄よりも地元からちょっと離れたところまで冒険しにきた学生の方がいいと思った。実情が変わらなくても、見た目だけでも。

私たちを殺風景な海辺からその場所へ連れて行く船は週に1回動くそうだ。とは言っても私たちが歩き始めてどのくらいの時間が経ったかも前の便がいつ行ったのか誰も知らなかったから、結局どのくらい待つのかはまるでわからなかった。

船は比較的すぐ見られた。私たちは乗り込んで、ここから動くまで1週間か、と思っていたら誰かが運転席に誰も人がいないことに気づいた。確かに、いかにも人力で動きそうな操縦席には誰もいなかった。するとそこで誰かがタブレット端末を見つけた。それには行き先が表示されていて、これを操作すると一週間も待たなくて良くなるようだった。

行き先も選べるようで、選べたのはどこか知らない地名が2つと、あの、途中通り過ぎた人が住む街に2つと、私たちが最初についた港と、終点と書かれた、多分私たちが行くべき場所。
え?!これで助かるんじゃない?終点以外を選べば、なんとでもなるんじゃない?わからないけど、こんな馬鹿みたいな死に方するよりは。なんて、思ったのも束の間、操作していた彼女は迷いなく終点を選んで、船を出発させた。何してんだ。
変な気分だった。さっきまでの自分は、その「馬鹿みたいな死に方」とやらを当たり前に受け入れていたのに、今更助かりたいと思うだなんて、まさか、本当に今更になって、死ぬのが怖くなったとでも言うのか。

ああ、平凡な人間だったときに戻りたい。大声で幸せだとは言えないけど、でもこんなふうに死ぬよりはずっとマシだった頃!そしたらこんな選択しなかったはずだ。いや、そもそもこんなものを選んだ記憶などないんだけど。

「あ、花束を忘れてきてしまったよ」誰かが言った。
花束なんて、いらないって。

私たちはこれまでと同じようにたいして話したりするでもなく、ただ簡素な座席に座っていた。
陸はどんどん遠ざかり、すぐに見えなくなった。

彼女たちがどういう気持ちなのか、この期に及んで気になり始めたが、聞けるような雰囲気でもなかった。

船はどんどん進んで、どのくらい進んだかはわからないけど、疲れが存在しないこの地ならワンチャン泳いで帰ることだってできるかもしれないと思った。

永遠にも思える時間が過ぎて、ようやくその場所に辿り着いたようで、船は止まった。

ついたけど、私たちどうすればいいの?飛び込む?なんて空気が漂い始めたころ、座席がひっくり返って私たちは海に放り出された。そんなのありかよ!海に沈む前、私の前の席の子がすごい痛そうな落ち方をしたのを見て咄嗟に大丈夫かと問うてしまったが私が言い切る前にどっちも海に落ちた。
ところが、私たちはある程度落ちた後浮いた。私たちが浮いた後、痛そうな落ち方をした子も浮いてきて、痛かったけど大丈夫だと言った。

船は操作しない限り一週間は動かなくて、今は例のタブレット端末も一緒に海に落とされたから誰も操作できないわけだけど、でも今から船に戻って一週間待てばどこへでも行けるんじゃないかと思った。思ったのも束の間、私は誰かに右腕を掴まれて海の中にまた沈む羽目になった。私の腕を掴んでいたのは、あの、一番よく話した彼女だった。もう片方の腕には船で私の隣に座っていた子が掴まれていた。私たちをつかみながら彼女はどんどん下へ落ちていく、私は、私たちは呼吸ができなくて、当たり前だけどひたすら苦しかった。
溺死するんだ、普通に、このまま。

私たちは2人がかりで上へ行こうとしているのに、彼女の力には勝てなかった。なんでこんなことするのかわからなかった。
どんどん沈んで、せめて残りの3人は無事だといいなと思った。ああ、死ぬ!もう死ぬ!!今に死ぬ!と思って目が覚めた。

私たち、あの後どうなったんだろう。

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