街中にはいくつもの優しさがあって
最近私は仕事で心が荒んでいる。
処理し切れない仕事量への半ば諦めのような気持ちと、またミスをして迷惑をかけてしまうのだろうかと怯えた気持ちを一緒に抱えて重い身体を引きずり出社する。
残業でほぼ毎日職場に居残り、ろくに睡眠を取れないまま出社する日々。
どうしても忙しく休みを取れず連勤するうちに、ミスを繰り返すようになった。
元々高くない自己肯定感は地まで落ち、やらなくてはいけないことばかりなのに常に頭がボーッとして、物事を考えられないという負の連鎖に陥った。
心の余裕が無くなると周りの全てに敏感になる。
普段であれば気にも留めないことが、棘になってちくちく突き刺さる。
自分の言葉や態度にも攻撃的な色が見える気がして、どんどん気持ちが落ちていった。
仕事中、大荷物を1人で抱えて街に行く機会があった。
手提げの紙袋を10個程持ち、レジャーバッグのように大きな鞄を抱えて自転車に乗ったのだが、側から見た私はさながらサンタクロースのようだったに違いない。
カゴに乗る分だけ乗せて、あとは腕に紙袋を通した状態で自転車を漕いだ。
運ぶのはよかったが、問題はその後。
自転車を止めて、荷物を持って目的地まで辿り着く必要がある。
駐輪場があったのは人通りの多い道だったが、仕方なく歩道のギリギリに荷物を下ろし、腕には下ろしきれなかった荷物を下げたまま、自転車を駐輪場に入れようとした。
しかし周りの自転車が倒れ込んでいて、上手く自転車同士の隙間に入れることが出来ない。
時間が迫り焦っていた私が、強行突破しようか、と自転車に力を入れようとした時、
「大丈夫ですか?」と男性が声をかけてくれた。
自分が何と返事をしたのか覚えていないが、その男性はあれよあれよと周りの自転車を立て直し、私の自転車を入れるスペースを確保してくれた。
心からありがたく思ってお礼の言葉を口にすると、いやいや、と言ってその人はサッと去っていった。
駅に向かう大通りでの出来事。
もしかしたら急いでいたかもしれない。それでも、見ず知らずの人間を助けてくれたその人の行動で、ふわっと心が温まった気がした。
同日の夜。
相変わらず残業の後に電車に乗っていると、
ある駅に停車した際、杖をついた方が降車しようとしているのが目に入った。
電車からホームへと降りる足取りは不安げに見えて、実際時間をかけて降りて行かれた。
その様子をドア付近に寄りかかっていたサラリーマンが少し心配そうに見ていて、ホームに降りた後もドアから顔を出してその方を確認していた。
電車が走り出して、ホームにいるその方を追い越す時も、無事に歩いているのをチラリと確認して、何事もなかったかのように電車内に目を移していたのを私は見た。
あぁ、いい人だなぁ、と思った。
世の中には優しい人がたくさんいるのだと、
自分のことで精一杯の私に教えてくれたような1日の出来事だった。
そして、じんわりと温まったこの気持ちを忘れたくないと思った。
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