弟から見た世の中は笑顔に満ちている

弟は幸せだ。高校野球部で潰した声で、いつも笑っている。大声で笑っている様子しか思い出せない。

少年ジャンプを読んでゲラゲラと笑うので、新しく買ったのかと思って貸してもらうと、1年前のものだった。なんでこれを読んで新鮮に笑えるのかと聞いたら、すぐに忘れるからと笑いながら言った。

ペットの犬の顔を口いっぱいに頬張り、犬が困って目をきょろきょろしているのを見て、大声で笑う。

ネコバスが何なのか母に説明しようと試みるがさっぱり理解されず、それでも床がふかふかで目が光って電線の上を走ると一つづつ言っては笑う。母もけったいなネコバスが好きになったが、弟の笑顔を思い出すからだろう。

子供の頃は引っ越しがちで、どこに行ってもいじめられていたようだ。その時分は声が小さくて、いつもおどおどしていた。私とは長いこと離れて暮らして、一緒に暮らすようになった時には随分と印象が変わっていた。成長した弟はすっかり頭が悪くなった。何をするにも要領が悪く、絶望的に不器用だ。そして、何事にも物おじせず、よく笑う。

ポンコツで多幸感が高い。私には弟がなぜそうなったのか、幸せの源は何なのか不思議だった。なにかきっかけがあるとすれば、義母と父との良好な関係だろう。他に要素は見当たらない。子供は自己を大人に委ねるので、精神的に健康な義母の影響を強く受けたのだ。

足りないものだらけなのに、弟の目には世界は笑顔に満たされている。不思議なやつだ。

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