佐藤まな【おやすみラジオ】

YouTubeにて睡眠用ラジオを配信中。 https://www.youtube.com/channel/UC5_JvPDj9ndK78JonxJNuyg

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最近の記事

第21話 Butterfly

「ねぇ、全然悪くなかったと思うけどな」  つみきちゃんは、長いポテトをつまみながらあっけらかんと言った。  ステージを終えたあかりは、つみきちゃんとFOOD AREAの白いテーブルで昼食をとるところだった。お昼時のFOOD AREAは賑わいをみせていた。それぞれのキッチンカーの前には行列ができ、テーブル席もすべて埋まっていた。テーブル席の30mほど先にはFOOD STAGEがあり、ステージ前には5-6列の観客の層が出来ている。あかりはその観客の層を見て、またどんよりとした気

    • 第20話 初ステージ

       審査員を務めるミラクはちらっと腕時計に目をやった。 「そろそろ、くじらNo.1972のステージが始まる時間だな」  手元の機械を操作して、目前のモニターをRELAX STAGEへと変更する。 「それでは、くじらNo.1972さん、お時間です」  ステージの袖で待機していたあかりは、集中力を保ったままステージへと歩みを進めた。彼女は、レースが重なった、少しくすんだ空色のワンピースに白色の仮面という出で立ちで、ステージ中央に置かれたキーボードを目指した。  ミレバTVの配

      • 第19話 白の仮面

         ゆい姉はピンク色の照明に照らされながら、ステージ上で歌い踊っていた。ゆい姉のテカテカとした衣装は、光を反射し、本当にキラキラと輝きを放っていた。ゆい姉の歌声は安定感がありつつも、独特の色気をまとう。バラードからダンスナンバーまで、どんな曲でもしっかりと魅せる。そして、ダイナミックな振り付けと共に、フェイク(即興の装飾音)を入れる余裕すら見せて、ゆい姉は完全にノッていた。  そのステージを、舞台袖から見守るあかりは、ゆい姉のパフォーマンスに圧倒されていた。あまりに素晴らしい

        • 第18話 BLUE FES開幕!

           雲一つない青空の下、BLUE FESのゲートをくぐる来場者たち。各ステージには人が集まり始めていた。  5つのステージの中でも、今回のフェスでのメインステージ、BLUE STAGEには既に大勢の人が詰めかけていた。その中に、つみきちゃんの姿もあった。人混みをかき分けながら、つみきちゃんはなんとかヨウヘイくんが見える位置を確保した。  BLUE FESの様子はミレバTVでも生中継されており、ぐんぐんと同時接続数のカウンターが伸びていく。すでに配信には5400人が集まってい

          第17話 今できることを全力で

           シャワーの水音がザーッと響く中、あかりは頭の中に配られた白紙のセット図を思い浮かべていた。そして、移動中のバンドたちが「全曲オリジナルで攻めよう」と話していたこと、そして、つみきが「25分のライブなら5、6曲かな」と言っていたことが脳裏に浮かんでくる。なにもかも初めてのことだらけで、ちゃんとライブができるのか、どんどん焦りが湧いてくる。  「大丈夫、ひとつひとつ、やっていけばいい」   あかりはそう自分に言い聞かせながら、顔にかかった水をパッと払う。あかりの手のひらにあっ

          第17話 今できることを全力で

          第16話 セット図ってなに?

           あかりが、タイムテーブルの最後の時間を埋め、元の位置に戻ると 冴島アキラは「では、これで全員分のタイムテーブルが決まりましたネ」と満足そうに言う。 「第1次ステージのフェス式審査では、来場者による現場投票とミレバTV視聴者のオンライン投票50%、そして審査員票50%を点数にして順位がつけられます」  スクリーンには審査員の顔と名前が映し出された。 ~第1ステージ 審査員~ 冴島アキラ BLUE STAGE統括プロデューサー 郷田毅   ボイストレーナー ミラク   

          第16話 セット図ってなに?

          第15話 第1ステージ フェス式審査

          「みなさん、第0ステージの通過、おめでとうございます」パチパチと冴島アキラが手を叩く。  すると、急にスクリーン上にランキングが表示された。 「こちらが第0ステージの通過者です」だんだんだんっと、1位から順にアーティスト名が開示されていく。 「1位 ё-BeL」 「2位 桜田はな」 「3位 青のカケラ」 「4位 Luminous」 「5位 Zempire」 ・ ・ ・ 「30位 THE PRIDE」 ・ ・ ・ 「77位 千種つみき」 ・ ・ 「82

          第15話 第1ステージ フェス式審査

          第14話 夢のような場所

           あかりやつみき、ゆい姉、最後にゴールした一行が感動に浸っていると、石原と名乗る男性が現れた。 「私はこの合宿施設の雑務などを任されているものです」「みなさんに施設をご案内します」  石原を先頭に200kmマラソンのゴールゲートとなっていた門の先に進む。  門をくぐった先には広大な庭が広がっていた。庭にはベンチやハンモックが点在し、穏やかな雰囲気が漂っている。そして、庭を歩いていくと目の前には真っ白な四角い建物がそびえ立つ。この1ヵ月半、夢見ていた場所だ。<ここでどんな

          第14話 夢のような場所

          第13話 むき出し

           17時10分。木々にはさまれた、なだらかな坂を登るあかり。  あかりの意識は朦朧としていた。朦朧とする中で、これまでの道のりが走馬灯のように蘇ってくる。  スタート時にゆい姉に声をかけられ、写真を頼まれた。その間につみきちゃんとはぐれ、ドベ2からのスタートになった。1日目は焦ってずっと一人で走ってた。200kmという途方もない距離にくじけそうになった。  倒れた夜、ゆい姉とKamiUra.に肩を支えられて歩いた。「脱落?脱落なんてしたくありません!」「私は大丈夫なので

          第12話 雨宿り

           4日目の朝9:00 「えぇっ?KamiUra.が脱落ってどういうことですか?」プロモーターの安藤まさるの大きな声が響く。  ディレクター弦田広大は「いやぁ、昨日の山でリタイヤしたみたいですよ」と答えた。 「そんな…彼の歌すら審査せずに落とすなんて。やっぱりこのオーディション失敗だったんじゃ…」  そこに冴島アキラが現れ、「何か問題でもあったかね?」と尋ねる。  安藤は焦りながら、「いやっ、問題というか、その…。30年に一度の天才、KaumiUra.が脱落したんです

          第11話 スキップ&ビター

          ヨウヘイ「もう1回!!」     「♬ゴールまで」 あかり&つみき「偉く長いぞ!」 ヨウヘイ「♬勢いで空回り」 あかり&つみき&ヨウヘイ「♬無駄じゃない 何度でも唱えながら…」 「Oh イエ――――――イ!!!」  3人はやけくそで歌いながら、なんとか山道の頂上までたどり着いた。 「っしゃあ!なんとか登り切った!!」「登り切った記念に写真でも撮るか~!」  ヨウヘイがiPhoneを取り出すと、大量のInstagramの通知が届いていた。 「す、すごいことになってる

          第11話 スキップ&ビター

          第10話 シグナル

           山道に入った3人。 「あぁ…足が重い…」  つみきちゃんが疲れた声を漏らす。 「だね。でももう、歩みを止めたら歩けなくなっちゃいそうだよ」  あかりも同意するように息を切らせている。 「そうなったら、俺が背負ってあげるからね☆」  ヨウヘイがニカッと笑い、親指を立てる。 「ヨウヘイくん、いいとこあるじゃん」つみきは茶化すように返す。 「ま、運賃はあとで請求させて頂きますけど」 「お金取るんだ…」あかりはボソッとつっこむ。 「俺とデートしてくれたらチャラにしても

          第9話 2+1=3

           マラソン3日目の午前8:00。90㎞地点の宿ー。  あかりは医者に無理言って貰った、痛み止めの錠剤や、テーピングをウエストポーチに入れ、宿を出発しようとしていた。 「明日の18時までに110㎞か...。ちゃんとゴールできるだろうか」  不安そうにテーピングだらけの足を見つめるあかり。 「今日はついに山に入るー。今日が一番過酷な日になるかもしれないな…」  あかりは今日、越えるべき山を見上げながら思った。雲一つない青空の下に、緑豊かな山がくっきりと浮かび上がっている。

          第8話 ラストチャンス

           200kmマラソン2日目。  柔らかな陽の光がカーテンの隙間から差し込む部屋で、あかりはゆっくりと目を覚ました。体は前日の疲れが残っていて、全身が重い。時計を見ると、すでに13時を回っていた。 「寝すぎた…!」あかりは慌てて起き上がった。だが、立ち上がると足が震え、思わずふらついてしまう。その瞬間、救護班の医者が駆け寄り、あかりの身体を受け止める。 「まだ、無理です。脱水症状を起こしています。脱水症状を起こした状態で走り出すと、熱中症になりますよ!」「熱中症になると、

          第8話 ラストチャンス

          第7話 初めてのワガママ

           ドタッ!  あかりは遂に暗い田舎道で倒れてしまった。  あかりが倒れてどれくらいの時間が経っただろうか… 「…ちゃん!くじらちゃん!!!!」  あかりの身体は激しくゆすぶられていた。  あーなんだか懐かしい声がする。ずっと前に聞いた声。あかりは夢を見ているような感覚でその声に耳を傾ける。やっとつみきちゃんと合流できたのかな。なんだか、ここまで必死に歩きすぎて何がなんだか分からないや…。 「くじらちゃんってば!」「ねえ本当にヤバいよ」「本部に電話して…!」  夢見

          第7話 初めてのワガママ

          第6話 背中に羽

           時刻は19:30を過ぎ、あたりは完全に暗くなってきた。あかりの前方を走っていた人たちは、一人、また一人と、宿に向かってコースを外れていった。  そんな中、あかりは「まだ、つみきちゃんにも追いつけていない…」と脇目もふらず歩き続けていた。 「みんなが休んでいる時に挽回しないと。今は一歩でも前に進んでおきたい」ペースは落ちたものの、ここが頑張りどころだと自分に言い聞かせ、必死に足を動かした。  いいねの距離短縮があるから、自分がどれくらいの順位にいるか分からない。一生懸命