なぜヒトだけが老いるのか
生物学者である小林武彦氏がこの本で読者に伝えたかった内容は、実は宗教哲学者のようでした。
第7章 人は最後に老年的超越を目指す の中の「老年的超越を目指して」の最後で以下の言葉を語っていました。
やがて目も見えなくなり、私を呼ぶ声も遠ざかり、ただただ幸せな気持ちに包まれて、ここはどこだったのか、私は誰だったのかなどはどうでもよく、宇宙そして全ての生き物とのつながりを感じながら、旅立つというより、元いた場所に戻る安堵感に包まれて長い眠りにつくのです。また目覚める日を夢見ながら
と締めくくっています。
ここまでたどり着くため、第1章から地球誕生からの奇跡の生命体の誕生からこの本は始まりました。
第1章 そもそも生物はなぜ死ぬのか
において、地球上における生命の誕生から進化の過程を生物学者の立場で丁寧に語っています。
そして第2章 ヒト以外の生物は老いずに死ぬ
の中で、野生の生き物は基本的に老化しないことを説明しています。
そして、第3章 老化はどうやって起きるのか
の中で、老化のメカニズムを説明しています。
次の 第4章 なぜヒトは老いるようになったか
の中で、「人生の40%が生物学的に老後」
「老いは 死を意識させ、公共性を目覚めさせる」
など数点を挙げ、ヒトの集団においては、老人の必要性について語っている
次の 第5章 そもそもなぜシニアが必要か
の中で、「シニアの存在価値」
「老いの一つの意味」
など数点を挙げ、素敵な老いをとげ、利他的、公共的な役割に資すること
の重要性を述べています。
次の 第6章「老い」を老いずに生きる
の中身ですが、私の尊敬する和田秀樹さんが推奨する高齢者の生き方と同様な内容
を列挙していました(笑)。
そして、最後の 第7章 人は最後に老年的超越を目指す
の中で、ヘミングウェイの「老人の海」で、大物のカジキを獲ったもののサメに食べられた喪失感ではなく、カジキと生きるか死ぬかの真剣勝負を行った幸福感が真の意味だったのではとの小林氏の見解が語れていました。
最後に、生物の中でヒトにしかない老後を、社会との関係を維持しつつ、公共的に生きてみることにより、人類の明るい未来の実現に寄与するのではないかとの締め括りでした。
死は、その個体、ヒトの場合はその個人にとっては終わりでも、地球上の生命にとっては絶対的に意味あることなのです。
「進化の原動力」
「死は進化に必要である」
生物学的な「死生観」ということです。