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もうひとつの選択

子育てがしたい。

自分のお腹からこどもが生まれることはないのだろうという現実を受けとめたあと、頭に浮かんできたのは『特別養子縁組』だった。

いろいろと調べたのち、それとなく夫にこの話題を出してみたところ反応はいまいち。
それもそのはず、私たちの財布は不妊治療ですでに空っぽになっており、金銭的に今すぐ特別養子縁組の準備に取りかかれる余裕はなかった。
また、もしかしたら夫の方が不妊治療の結果を受けとめることに、時間がかかっていたのかもしれない。
「いずれそんなことも考えられたらいいね。」
否定的ではないけど、今から前向きに準備していこうという雰囲気でもなかった。

いつかのための下準備としてまず考えたことは、特別養子縁組を行うのであれば周りからの理解を得られるかどうか。
祖父母やおじさん・おばさんなどの親戚関係から、親の友人、近所の人々…。
こどもは両親からだけではなく、いろいろな大人から影響を受けるものだと思う。
もし、近所の人々から好奇の目で見られたり否定的に受けとめられたとしても、それは今の日本では仕方がないことかもしれない。
代わりにそれを埋められるくらい、私たちが愛情をかけなければならないのだろう。
せめて自分たちの両親や兄妹には前向きに受け取ってもらえなければ、進めない道なのではないか。
私の両親はいままでの不妊治療の経緯を知っていたので、まず母にそれとなく話してみた。

それなりの理解をしめしてくれたけど、想像以上に厳しいことを言われた。

それに私の両親には、すでに妹が産んだ孫がいる。
血の繋がった孫と、繋がっていない孫。
きっと同じように愛してもらうことは難しい。
言葉にされなかったけど、きっとそうなってしまう気がした。

ちなみに、義父母は不妊治療をしていたことをきっと知らない。
夫は折を見て話せれば…と言ってはいるが、孫について話題が出たことは一度もなく、こちらからこの話を切り出すこともできずにいる。
口にはしないけど期待しているのだとしたら、心苦しいのだけど。
もし、「孫を産むことはできませんが、特別養子縁組を考えています。」と伝えたらどんな答えが返ってくるのか……。
想像できない。

1年以上かけモヤモヤと考えてきたが、養子を迎え入れることは私たち夫婦には難しいという結論にいたった。
いろんな理由があるが、一番は長時間労働になりがちな職業であることと経済的に不安定であること。
こどもと向き合う時間は増やしてあげたいけど、経済的な余裕を持つために私もそれなりに働かなければならないだろう。
しかし夫の職種では、ワンオペにならざるをえないことが容易に想像できる。
せめて実家の手が借りられればと思うけど、そもそも距離的に難しい。
今の私では、迎え入れたこどもをしあわせにすることはできないのではないか……そう思ったら諦めがついた。

夫は一度目指した独立開業を保留にして今は会社員でいるけれど、独立したいという思いを捨ててしまったわけではない。
夫らしくいられる道を歩いてほしいという気持ちもある。
私も今年1年で仕事が増え、来年はさらに幅が広がる予感がする。
誰かに必要とされて仕事の幅が広がってくことは、嬉しいことだしやりがいも感じる。
「子育て」が私の人生のページに刻まれなくとも、ようやく自分らしい生き方ができると思えるようになってきた。

こどもに関する悲しいニュースに触れるたび、もっとこの制度が一般的なことになればいいのに…と思ってしまう。
何らかの事情で育てられないお母さんから生まれてくる赤ちゃんの命が、救われる世の中になってほしい。
日本では、こどもは親が育てるものという風潮が強いように感じるけれど、社会が育てるものという空気に変わっていってほしい。
不妊治療と同じように特別養子縁組も、普通のことになる時代になっていくことを願っている。

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写真は少し前に買った山帰来。
国産のもので、大きくふっくらとした実が美しかった。
近所にあったお気に入りの花屋さんが閉店してから半年、ようやく歩いていける範囲に好きな雰囲気の花屋さんを見つけました。
花が欲しいと思ったら駆け込める距離にそういうお店があることで、日々の楽しみが増えていく。



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