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いつかの憧れを手にした日


桜が満開に咲いていた頃。
近所の桜並木の近くで、豊かな白髪のご婦人が山葡萄のかごバッグを持って歩く後ろ姿を見かけた。
つややかで美しく、まるで革のような山葡萄らしい経年変化を遂げているその姿を見て、きっと彼女に長年連れ添ってきたんだろうと思い、その年月にも思いを馳せた。

山仕事の籠などにも使われてきた山葡萄は、とても丈夫で雨に濡れても問題なく、真竹のかごバッグなどより多少乱雑に扱っても大丈夫なんだそう。
もう数年通っている、審美眼に優れたオーナーが運営されているギャラリーで山葡萄かごの展示があるたび、そんな山葡萄のエピソードを教えてもらい手に入れたいと思いながらも、そのお値段に躊躇……。
山葡萄は、ずっと憧れの存在だった。

桜並木で、あのご婦人の後ろ姿を見かけたとき、ふと「私、フリーランスになって今年で10年だ…」と気づいた。
10年の節目に、今まで頑張ってきた証となり、この先の私を支えてくれる何かを持ってもいいのではないか。
その瞬間、今年こそあの憧れを手にする時だと、頭のなかで鐘が鳴り響いた。

その数日後、ちょうど先述のギャラリーで山葡萄かごの作り手・渡邊勘七さんの展示があった。
いろいろなサイズがあり、好みの持ち手の長さでのオーダーも可能とのことだったので、自分がいちばん使いやすいサイズはどのくらいなのか…と悩み考えた。
最終的に選んだのは、A4のクリアファイルがぴったり入る少し大きめのもの。
背の高い私には小ぶりなものよりこのサイズが似合うと、オーナーからもお墨付きをいただいた。

さっそく数回使ってみたところ、軽くて本当に使いやすい。
(渡邊勘七さんの技術で、その軽さを出せるのだそう)
荷物が増えても、バッグが重くて辛いという気持ちが湧かなかった。

値が張るものを買うとき、これは一生モノだと思い込むことがあるけれど、
実際には容姿の変化などにより、なかなか一生モノにはならない。
特に洋服に関しては、体形の変化もあるから難しいと気づいている。
それでも、歳を重ねるほどに艶を増していくであろうこのバッグは、きっと一生モノだ。

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