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やめどき

39歳になり、1週間ほど経ったころ。
これが最後と臨んだ人工授精もうまくいかなかったと判ったその日、私の不妊治療は終わった。
あれから2年が経ち、いまだから思う不妊治療の「やめどき」について。

不妊治療のやめどきに、きっと正解はない。
ただ、今になって分かったことは、「もうやりきった」という気持ちで終えることができれば、いつかその気持ちはだんだん晴れてくること。
現実を受け入れ、前を向けるようになるまでの時間は、人それぞれ。
不妊治療をやめるとき、「こどものいる人生」「こどものいない人生」の岐路に立っているような気持ちになるかもしれない。
その分かれ道からすぐ前に進める人もいれば、ずっと立ち止まってしまう人もいるだろう。
それでも「やりきった」という気持ちがあれば、「あの時あれもやっておけば良かった」という後悔は生まれにくい……と私は思っている。
(それは不妊治療に限らず、どんなことにも言えそうだけど。)

やりきったという気持ちになるまでの過程も、きっと人それぞれ。
私の場合は、今の医療技術でできうることはすべてやりきったということと、経済的に続けることが難しくなったということ、この2つが大きな理由だった。
経済的に余裕があったら、おそらく体外受精をもう少し続けていただろう。
でも、あれ以上続けていたら心はもっと疲れてしまい、前を向けるようになるまで、今よりさらに時間がかかっていたかもしれない。
一般的に37歳あたりから妊孕力(=簡単に言うと、妊娠・出産できる能力)はぐっと下がるようだし、私のやめどきは、あの時で正解だった。
妊娠に関しては、20代後半~30代前半が適正年齢であることは事実。
(だから、体外受精へのステップアップを悩んでいる人をみると、いずれやろうと思っているのであれば少しでも早い方がいいよ、と言葉をかけたくなる。)
ただ、40代になっても妊娠できる方もいるので、年齢だけをひとつの区切りにすることは違うようにも思う。
「これで終わり」の線引きは、誰かが引くものではなく、きっと自分で引くものだ。
誰かに引かれた線では、きっと後悔が残ってしまうから。

「(こどもは授かれなかったけど)不妊治療はやめることにしました。」と周囲に報告した時、「(まだ30代なんだから)やめても自然にできるんじゃない?」とか「不妊治療をやめたらこどもができた人を知っているよ。」と声をかけられると、辛い気持ちになった。
悪気などなく励ましのつもりだったことは、分かっている。
それでも辛いと感じたのは、今まで頑張れるだけ頑張ってきたのに、まだ頑張ってと言われているような気持ちになったから。
妊娠は、努力だけではどうにもできない。
だから、もし身近な人からこのような報告を受けたときは、「大変だったね」とその人の気持ちに寄り添うだけで十分だと思う。
(私の場合、この言葉は治療が現在進行形だった時もかけられたけど、その時も今の努力が無駄だと言われているような気持ちになってしまったので、いずれにしても「やめたらできる」という言葉はおすすめしない。)

「こどもがいない人生」を受け入れてから、2年。
私は今、こんな人生も悪くないと思っている。

夫との関係は時間的余裕に変化がないからか、新婚当時とそう変わっていない。
むしろ不妊治療をいう苦行をふたりで乗り越え、絆は深まったように思う。
自由に使える時間が多いから、急ぎの仕事にも対応しやすい。(フリーランスなので、これ大事)
会いたいと思ったときに友達と会ったり、美術館など好きな場所にすぐ行けたり、興味のあることへの学びを深めたり、自由に行動できることが多い。
不妊治療で大金を使い果たしてしまったけど、教育費の心配をしなくていい。(こどもができていたら、金銭面でのストレスは相当なものになったかもしれない…)
最初は開き直ったようにこんなことを考えていたけど、だんだんと本当に、こういう人生が楽しいと思うようになってきた。

もし今、不妊治療のやめどきについて悩んでいる方がいるとしたら。
できない理由は、あなたのせいではないよ。
と声をかけたい。

私は、ありがたいことに周りからのプレッシャーが少ない方だったと思うけれど、「孫の顔が見たい」とか「こども嫌いなの?」など言われたり、不妊治療に対して理解のない言葉をたくさん投げかけられてきた方もいるだろう。
こどもが欲しい理由も、やめるまでに至る理由も人それぞれだろうから、一概に「やめても人生楽しいよ」という言葉は、無責任な気がしてかけられない。
それでも、自分を責めることからだけは、解放されてほしいと思う。

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画像の花は、先日の「国際女性デー」に夫からもらったもの。
前日、夫と近所を散歩していた時に立ち寄った花屋の店先で、「3月8日は国際女性デーだから、ミモザや黄色い花を贈るといいらしいよ」と吹き込んでおいたら、しっかり仕事帰りに花束を買ってきてくれました。
感謝の気持ちをいつでも包み隠さず伝えてくれる夫に、私もありがとうと伝えたい。

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