斉藤参考人:ちょっと待って共同親権プロジェクトチームリーダー 斉藤幸子 第213回国会 衆議院 法務委員会 第7号 令和6年4月3日
斉藤参考人:ちょっと待って共同親権プロジェクトチームリーダー 斉藤幸子
第213回国会 衆議院 法務委員会 第7号 令和6年4月3日
004 斉藤幸子
○斉藤参考人
参考人の斉藤と申します。まず初めに、DV被害者としてこの場に立つに当たり、顔を出さない遮蔽措置、ボイスチェンジャーで声を変えること、そしてインターネット審議中継で顔を映さないことなど、特段の配慮をくださった議員の皆様、衆議院職員の皆様に深く御礼申し上げます。
こうした特別な措置が必要なのは、私が住所を秘匿して暮らしており、夫がいつ居場所を突き止め、目の前に現れるか分からない恐怖と隣り合わせの毎日を送っているからにほかなりません。今この瞬間、ネットでは、私が誰であるか犯人捜しのようなことが起こっているはずです。実際に、離婚後共同親権に懸念があると発信している人に対して、共同親権を望む人たちがその人の名前や顔をSNSなどでさらし、職場や実家に嫌がらせをしているということを知っています。もし私の身元がばれてしまったら、私と子供はおびえながら再び転居、転校、転職をしなければなりません。今日、この場に立つことはとても怖いです。ですが、声を上げられない日本中のたくさんのDVの被害者の仲間たちの応援を受けて、勇気を振り絞って、国会という公の場で思いを仲間の声も含めて伝えることに決めました。
私は、離婚後の子育てを両親そろってできることは理想的ですばらしいことだと思います。そして、現時点でもできている人たちがたくさんいることを知っています。しかし、離婚後に協力し合えない人たちにも協力し合うことを強制しようというのが今回の法改正です。DV、虐待を除外すると言われていますが、実際にDV被害を受けた者としては、現状の仕組みや社会の理解度を考えると安心はできず、毎日不安な思いで子育てしています。
まず、私の経験をお話しします。
私は、入籍直後、夫より遅く帰宅したことを理由に殴られました。それからは、殴る、蹴るはありませんでしたが、物を投げる、壊す、罵倒、監視、お金の制限、同意のない性行為といった暴力を受け続けました。
私は、夫を怒らせてしまうのは自分の頑張りが足りないんだと思って、耐えながら過ごしました。妊娠が発覚した後も、夫の暴力はやみませんでした。夫が暴れ、ぐちゃぐちゃになった家の中を、妊娠した大きなおなかで片づけ続けました。このまま産んでいいのだろうか、不安でいっぱいでした。
里帰り出産をしましたが、その後、子供に障害があることが分かりました。夫は私にこう言いました、障害はおまえのせいだ。その後も夫は、子供の前でも怒鳴り、育児は何もしませんでした。このままでは私が壊れる、子供を守れない、そう感じ、里帰りのまま別居しました。
別居後、友人に恥を忍んで夫が怖いことを相談すると、それはDVだよと言われ、DVを知りました。同居していた頃は自覚できませんでした。自覚していたとしても、自分を守るのに必死で、録音やメモを残せる状況ではありませんでした。もし録音がばれたら、激怒され、暴力がエスカレートするからです。今になってDVの証拠を出せと言われてもできません。
その後、夫は面会交流調停を、私は離婚調停を申し立てましたが、夫が、面会できなければ離婚しないと強く主張したので、家庭裁判所では面会交流の話ばかりが進みました。私は、手元に僅かに残っていた夫からの脅迫メールや配偶者暴力相談支援センターの記録、子供の主治医の意見書などを提出しました。そこにはこう記されています。妻は配偶者によるストレスで重度のうつであり、障害のある子供の監護に悪影響になるので、面会の負担を考慮すべき、子供は障害の状態から、面会交流は控えるべきだ。しかし、調停委員や裁判官は、それは離婚事由で、面会では理由になりませんねと言い、調査官も、子供に障害があっても、親がうつでも、面会には関係ないとはっきり言っていました。さらに、子供を別居親に会わせないなら親権は取れませんよとも言われました。恐怖と不安、絶望感でいっぱいでした。
私は、子供に無理をさせることはできないと訴え続け、争いました。面会交流を決めるだけで高裁まで行き、五年かかりました。弁護士費用や慰謝料など百万円以上かかりました。離婚は今もまだ成立していません。
離婚後共同親権導入の法案が成立し施行されたなら、また子供のことで裁判の毎日でしょう。子供を安心して育てたいだけなのに、別居親の同意を得るために裁判をし続けなければなりません。肉体的にも、精神的にも、経済的にも更に追い込まれます。弁護士費用が用意できなくなったら、夫の要求を拒否できる自信はありません。本来であれば、その時間、お金を子供に費やしたいです。子供の利益とは一体何なのでしょうか。
こうした経験は、決して私だけに限ったことではありません。ここから先は、ほかの方の経験談なども含めてお伝えします。
まず、お伝えしたいこと、それは、そもそも社会的にDVについての理解がないと感じます。実際に、グーではなくパーで殴られたのだからDVではない、血が出ていないからDVではない、しつけや教育のためだと言っているからDVではない、保護命令が出ていないからDVではないと思っている人がたくさんいます。一般の人だけではありません。裁判官や調停委員はDVの理解が乏しい、被害当事者の仲間たちは必ずと言っていいほどそう口にします。
DVの認定という意味では一番心配なのは、精神的DV、いわゆるモラルハラスメント事案です。現状、裁判所は事情を考慮してくれていません。誰のおかげで生活しているんだよと非難する、無視する、朝までの説教を続け反省文を書かせるDVもあります。さらには、親族や友人との連絡を取ることも認めない、生活費をくれない、性行為の強要もあります。これがずうっと続きます。これは単なる夫婦げんかではなく、人格否定、破壊です。
DV被害をやっとの思いで相談しても、あなたが選んで結婚した相手でしょうと理解してもらえず、二次被害を受けることが多いです。挙げ句の果ては、虚偽DVと言われたり、逃げたことを連れ去りと言われたりします。
そして、子供の気持ちが理解されていません。子供たちの意思やその子の生活を無視した面会交流が行われています。
私の知人は、離婚が成立し、裁判所から、養育費とバーターに面会交流を命じられました。そして、面会前後に子供が精神的に不安定になり、爪や指をかむ自傷行為をするようになってしまったという話を聞きました。この知人は、元夫から突き飛ばされたり壁を殴られたりするDVを受けており、子供もおびえていましたが、証拠が十分でなかったのか、家裁はそうした事情を酌み取ってくれず、面会交流を命令されたのです。
ほかには、同居中に乳児が骨折するまで暴行を受けたのに、面会を命じられた子供もいます。面会交流中に帰りたくなったのに、第三者機関の付添人に体を押さえられ帰れなかったことで、傷ついた子供もいます。面会交流中に父親から性的な虐待を繰り返し受けている子供もいます。
今でさえ、面会交流の場でつらい思いをしている子供がいることを知ってください。
法案では、父母が合意できない場合でも、家裁が共同親権を決定できる内容になっています。ですが、同居中ですら意見が合わない夫婦が、家裁に強制されて親権を共同行使できるのでしょうか。子供のためにと意見を合わせられるのでしょうか。
ある知人は言います。子供に療育を受けさせたかったが、夫が子供の障害を認めたがらず、療育を受けられなかった、子供は不登校になってしまい、育て方が悪いと責められた、離婚できたからこそ、今、子供が元気に特別支援学校に通えていますと。
離婚後も、子供の進学、海外旅行、ワクチン接種や病院での手術など、子供の成長の節目節目で別居親の同意が必要になります。これの一体どこが子供の利益になるというのでしょうか。
日本では、協議離婚が九割以上を占めます。協議離婚は話合いができる関係だと思われがちですが、DV事案も多く含まれています。当事者夫婦だけで決めているので、DVがあったとしても、第三者は、協議して離婚したんだとしか判断できません。離婚してほしいなら親権を譲れ、養育費を払わなくていいなら離婚してやってもいいと加害者に言われて、とにかく一日も早く別れたい一心で、相手の言い分を全部のんで離婚した話もよく聞きます。
離婚後共同親権が導入されれば、加害者は共同親権を交渉材料に利用して、離れてもDV、虐待が続き、逃げ場がなくなります。まさに今、離婚をめぐる協議の現場では、二年後に法が施行されたなら共同親権を主張してやるぞと夫から言われている当事者も存在します。
この法案で大変懸念される箇所がございます。単独での親権行使が可能な要件の一つに、急迫の事情があるときというのが挙げられています。急迫の事情がない限り、子の居所指定、つまり引っ越し先を夫婦で一緒に決めなければならないということだと思いますが、このままでは、DV被害当事者が子供を連れて避難することができなくなってしまうのではないでしょうか。離れたい相手からの許可を得てから逃げるなど、あり得ません。
DVは、一発殴られたから、はい、DV被害に遭いましたというわけではありません。継続した暴力に耐えられなくなり、ある日逃げようと決意します。着のみ着のまま逃げる人もいますが、多くは、子供の安全を確保するため、計画した上で逃げています。計画して逃げる場合も急迫に当たると判断してもらえるのでしょうか。私はこの法改正に反対ですが、せめて急迫の事情という一文は削除してください。
今後のDV被害者らの支援についても心配があります。両方の親が親権を持っている場合、相手の同意があるかどうかをめぐったトラブルを避けるため、学校や病院、行政や警察を含む支援機関が及び腰になることも予想されます。私たちDV被害当事者は、そうした方々に支えられています。ですが、親権の共同行使が明確化されると、支援関係の方々が親権の侵害だと訴訟を起こされ妨害を受けた結果、DV被害者と子供たちは誰も頼れず、孤立させられます。
あと二点、お伝えしたいことがあります。
一つ目。資料一を御覧ください。
兵庫県伊丹市では、二〇一七年、面会交流中に四歳の女の子が父親に殺害される事件が起きました。この子の母親は、DV被害を受け離婚、その後、面会交流調停を申し立てられました。調停でDV被害があったことを訴えましたが、調停委員から面会交流を勧められました。元夫につきまとわれる恐怖にさらされながらも、面会交流に送り出された日に娘さんは殺害されました。
そのお母さんが、法案審議の様子を知って、こうコメントを寄せてくださいました。
法律の知識がないまま、調停委員の方々の言うことを聞いて、面会交流を言われるままにするしかないと思いました。ですが、DVの証拠の写真を提出していたんだから、ちゃんと判断してほしかった。DVなどの声を上げられない人たちの事情を知って、ちゃんと理解してほしい。目の前の案件を片づけるんじゃなくて、DVの本質、実情を見てください。私は電話番号まで変えて逃げていたんです。
今も彼女の心には、四歳のままの、かわいい笑顔の娘さんが生き続けています。そして、自分のような被害者を二度と生んでほしくない、そう切に願っておられます。
この方のように、面会交流中に子供たちが命を落とすケースは、既に共同親権を導入している国では、これまでに九百八十五件報道されています。お手持ちの資料二を御覧ください。この事実をしっかりと検証する必要があると強く思います。
二つ目。
先週、三月二十九日の金曜日の夜には、共同親権の廃案を求める集会で、国会前に約七百人が集まりました。そこに集まったDV被害者の仲間たちは、夜にもかかわらず、みんな、マスクや帽子、サングラスなどで変装していました。警備員も依頼しました。それは、加害者が来ているかもしれませんし、共同親権を望む人たちが顔をSNSなどでさらし、嫌がらせするのが怖いからです。それでも、自分たちの声を何とか必死に伝えるために集まったのです。みんなで一生懸命書いた導入反対のパブリックコメントが無視されたので、もう表に出るしかないとせっぱ詰まっているのです。
皆様に心からお願いしたいです。この法案には、子供たち、私たちの命が懸かっています。もっともっともっと、慎重な御議論をお願いいたします。
以上です。(拍手)