言いたいことが言えない
夏日が続くスウェーデン。風が吹いたり日陰にいると気持ちがいいけれど、日に直接当たるとじりじりと本当に焼けてしまいそうになる。こんな日でもそうでなくても、夏は湖にどぼーんするのがスウェーデン人。
サマーハウスにストックホルムに住む親戚たち遊びに来ていたので、1年ぶりに会いに行ってきた。息子より1歳年上の子がいるので、一緒に水遊びして丸一日遊んだ。親戚たちは1週間、サマーハウスに滞在することもあって、水遊びのおもちゃをたくさん持って来ていた。一方の私たちは大したおもちゃも持っていないので、プラスチックのトラックとか車とか、定番のシャベルやバケツぐらいしか持ってない。息子は自分のおもちゃには目もくれず、親戚の持ってきたラジコンボートに夢中。年上の子と二人であーだこーだとずーっとそのボートで遊んでいる。その内、親戚の子がそのお父さんと一緒にラジコンボートの操縦をして遊び始めた。親子でキャーキャー言ってるのを見つつ、猛スピードで走るボートに静かに興奮いていた息子。親子で水に入ってキャーキャー言ってる脇で、一人ボート片手に遊ぶ息子。お父さんのコーラを奪って飲んで叱られて拗ねる親戚の子を、横目で気にしつつボートで遊ぶ息子。我が家のお父さんと、この親戚の子のお父さんはタイプが違う。我が家のお父さんは、水遊びもしないしラジコンには興味がない、コーラも飲まない。我が家には”無い”ものがある親戚の親子像に、息子はきっと羨望の気持ちと、それを”欲しい”と素直に言えない気持ちと、二つの気持ちを胸の中でころころ転がしていたはずだ。それでも瞳からは羨望の眼差しがこぼれ落ちていた。その後ろ姿には、少しだけ愁いの香り。
私はスウェーデンに移住して十数年、一度も湖で泳がなかった。日に焼けるのは嫌だし、水着になんてなりたくないし、何よりスウェーデン人の好む湖の水温がいつだって冷たくて、こんな冷たいところに足を入れるのさえお断り!だったのだ。だけども、愁いを背負う息子の背中を見て、言えない気持ちを押し込んでいるだろう息子を見て、私は初めて、湖に入っていった。この日の水は温かく、気持ちよかった。水につかる私を見て、息子はきょとんとしつつも、口元はニヤリと歪んでいた。「こっちおいで。ちょっと深いけど楽しいよ」と誘うと「やだよー」と言いながら笑ってる。手を差し出すと、息子も手を伸ばした。ゆっくりと私に近づいてくる。「うわー、深~い!」(息子の膝ぐらい)と大声をあげた。親戚の子も近くまで来て、そこでお気に入りのボートを二人で楽しそうに走らせていた。
私は、小さいときから言いたいことが言えなかった。貸して、とか、一緒に遊ぼう、とか、私もそれやりたい、とか。恥ずかしいんじゃなくて、ただ言えない、という感じ。息子を見ていると、そんな私と重なって見える時があって、その気持ちがわかるから、きゅーっと胸が締め付けられる。言いたいことを言うには勇気が要る。その勇気は、本人にしてみたらとてつもなく大きな勇気だ。少しづつ勇気を出す勇気が芽生えるように、息子の心を満たしてあげようと思う。その為に、自分の習慣や思いを変えてみるのも悪くない。湖で泳ぐことに何の興味もなかったけれど、息子と一緒なら驚くほど楽しい。息子の心と同時に自分の心も満たされていく。一石二鳥の親子関係、どんどん満たしていこうね。
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