息子のこころ。
イヤイヤ期は心の成長の証、とどこかで見聞きした。息子は一年ほど前、絶賛イヤイヤ期だったのだけど、季節が変わる頃には少し落ち着いていた。長い夏休みが終わって、再び ”いつもの生活” に戻ったら、少し様子の違うイヤイヤ期がやってきた。第二波だ。
第一波の頃は、何でもかんでも「ヤダ!」のわかりやすいイヤイヤ期だった。この時の第二波は、言葉が出る前に泣き叫んでしまう。何がしたいのか、何をして欲しいのか、と聞いても泣き叫ぶだけ。両手を口に押し込んで、ヨダレを垂らしながらの大泣き。母はただ、落ち着くのを待つしか対処の方法が無くなってしまう。
この第二波が来た頃から、何となく、本当に何となく、息子は愁いの表情をするようになったように感じる。本当に何となく。幼稚園のクラスにはたくさんの新しいお友達が入って来た、お気に入りの先生は辞めてしまった、そんな環境の変化が原因かはわからないけど、息子がお昼寝をしない日が続いた。寝ようとしているのに、寝られなかったらしい。今までできたことや言えたことを、しなくなったり言わなくなったり。
息子のこころに何が起きているのか、それは本人にだって計り知れないだろう。きっと、こころの中には喜怒哀楽だけでは表せられない、 ”ニュアンス” を含んだ様々な感情が一斉におしくらまんじゅうしているに違いない。息子の小さなこころは、押し出されそうになった感情がうにゃうにゃしていて、心地悪い思いをしているんだろう。そんな思いを、息子はどう表現して吐き出していいのかわからなくて、もがいているんだろう。成長するっていうのは、時に苦しいことでもあるんだね。大丈夫、本当に苦しくなった時も、そこから抜け出せた時も、母はいつもそばにいるからね。そんな思いで「ギューってしようか?」とハグの提案をすると、大抵断られていた。淡白なだけなのか、はたまたこころの成長のせいなのか。母はちょっと・・・寂しい思いをしていた。
その後にやってきたのは、妹への攻撃期。妹がぐずって泣くと、突然ペチペチと頭や顔を叩く。それで妹はもっと勢いよく泣く。更に強く叩く。これが一日に何度も繰り返されていた。これもおしっこを漏らした時と同様、優しく声かけても、厳しく伝えても状況は全然変わらない。毎日毎秒、息子が娘に近づく度に目が離せずにいた日々は、かなり長く続いた。
段々息子の話す言葉も増え、自分の感情を少しづつ口にできるようになってから、妹への攻撃が弱まった時期があった。やっと仲良くできるようになったね、と喜んだのも束の間、また攻撃が再開された。この時期、いつもより長く日本に一時帰国していて、私の狭い実家で過ごしていたのでそれがストレスになっていたかもしれない。この頃の攻撃は”押し倒す”。何も抵抗できない娘は、毎度毎度頭を床に打ちつけるので悲鳴に近い声で大泣きする。何もしてないのに、突然痛い目に会うなんて、不幸としかいいようがない・・・この時はとにかく、あなたの行動はやってはいけない行動です、というのをわからせる為だけに、シンプルに「やらない!」「ストップ!」と言い続けていたけれど、もちろん直ぐにわかってもらえるはずもなく、本当に毎日ハラハラと過ごしていたっけ。
あれから少しの時間が経って、兄と妹は一緒にふざけ合って笑い転げる日が多くなってきている。攻撃するんじゃないか、というハラハラは前よりも薄れてきてはいるけど、油断するとまた攻撃して妹の悲鳴が響く。しかし、もうすぐ妹も力を付け、知恵も持って反逆することだろう。その時にはまたその時のハラハラが待っているんだろうけど、自分より下だと思っていた妹の反逆は、親の「ストップ!」よりも効果的であるんじゃないか、と少し期待している。
小さな人間が、その少ない経験値で起こす行動は、ハラハラしてしまっていても、やっぱりとても愛おしい。色んな悔しいや苦しい、たくさんのヤダを経験して、自分の感情と向き合っていくその過程を、母はそっと見守り、盛大に応援していくよ。
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