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レシピタイトルの誇大広告多過ぎ問題について思うこと

仕事柄、食関連の情報には常にアンテナをはっている私ですが、このところ「世界一◯◯な」、「無限◯◯」、「悪魔の◯◯」みたいなレシピ本のタイトルや料理名を多く見かけるようになりました。

今年発表のレシピ本大賞2019でも…

料理部門大賞
『世界一美味しい手抜きごはん』

お菓子部門大賞
『世界一親切な大好き!家おやつ』

と、出版社が違うのにどちらも「世界一」がついたタイトルなのは偶然とは言い難いのかなと思います。
もちろん、出版社の方は「売れる」本を作らなければいけないので、読者が読みたくなるようなタイトルを相当研究しての結果なので、誰が悪いとかではなく、時代なのでしょう。

この本以外にも、SNSやレシピサイトには同様の謳い文句が溢れています。
今や「簡単」「誰でも出来る」「失敗しない」程度のキーワードでは見向きもしなくなってしまったのでしょう。

簡単は当たり前、誰でも出来るのも当たり前、もっと!もっと!!と行き着いたのその先が「世界一」「無限」「悪魔の」と言ったキャッチーな枕詞なのでしょうね。

先日、岡田育さんのこんなTweetを見かけまして

同じようなことを常々思っていたので、岡田さんのTweetの趣旨とは異なる視点で

と言うTweetをしたところ、料理界隈の皆さんから割と共感のコメントを頂いたので、その辺りの補足をしておきたいと思います。

このTweetに限らず、以前から

「(レシピが悪いせいで)料理が下手だと思い込んでいる人がいるのでは?」

「(道具の手入れが悪いせいで)料理が下手だと思い込んでいる人がいるのでは?」

との意識から、「料理が苦手」「料理を苦痛」と感じる人がいるのではないか?との問題提起をしてきたのですが、レシピを提供する環境が激変して来たことも少なからず影響しているのではないかと思います。

レシピ投稿サイトが普及するまでは、そもそもレシピは料理人や料理研究家だけが出版などの形で公開する特別なものだったので、広く公にするために何度も何度も試行錯誤し、再現性を高めるために何度も試作し、出来上がりの美味しさにブレがないようにしていました。

それが、良くも悪くも、誰でもレシピを公開出来るようになった事で、レシピ自体の価値と質が変わってきました。

これは特に製菓で顕著なのですが、レシピによくある「卵1個」の量は、卵の大きさによって

SSサイズ 40〜46g
LLサイズ 70〜76g

と、36gも変わってしまうことがあるんです。

一般的に流通している卵はM(58〜64g)〜 L(64〜70g)なので、それでも卵を2つ使うと最大で12gの誤差があるわけですね。

卵の大きさが異なることについてはこちらに解説があります。

少量を作るレシピであればある程、この差は仕上がりに大きく影響します。(全体の総重量に対する卵の割合が変わるので)

それがわかっているので、プロのレシピでは、型の大きさも指定されていますし、ほとんどの材料がg表記なのです。

…と言うことをふまえると、プロのレシピとそうでないレシピの違いや使い分け方がご理解頂きやすいのではないかと思います。

要するに、レシピ投稿サイトやSNSの「世界一」や「無限」や「悪魔の」とついたレシピのうちのいくつかは、美味しさを担保したレシピではない可能性が高いので、それが原因で料理を嫌いにならないで欲しいなと思う次第です。(もちろんお好みに合えば良いのですが)

また、それらのレシピの美味しさは、多くの場合、うま味と糖質と脂質である事が多いのです。
もちろん素材の味もあるとは思いますが、多くの人に好ましい味にするためには、往々にしてうま味を重ね過ぎたり、塩味、甘味が強過ぎる傾向があるように感じます。

料理を作り慣れた方なら、調味料の配合を見るとある程度出来上がりの味が想像出来るのですが、やはり「これだとちょっとしょっぱいな」とか「こんなにうま味を入れなくても十分なのにな」と思う事が多いのです。

そう言った、うま味、塩味、甘味が強過ぎる料理ばかりを食べていると、どうなるか?
味覚が単純化してしまうのではないかと懸念しています。

以前、フランスで始まった「味覚の1週間」の一環として行われている「味覚の授業」を日本でも普及させたいと、ボランティアスタッフの募集と研修会があって参加した事があるのですが

子供達に味覚障害のある子が増えているそうなのです。

味覚の授業は、五味のうち4つの、塩味、甘味、酸味、苦味を、それぞれ塩、砂糖、お酢、チョコレートを味わってどのような味か表現する体験型授業なのですが、塩味と甘味は分かっても、苦味や酸味をなかなか表現出来ないそうなんです。家庭でも普段からあまり体験しなくなってしまったのかもしれません。

離乳食期では、生存本能が働いて酸味と苦味を避ける傾向があると知っていました。

酸味 → 腐敗した食べ物を避けるため
苦味 → 毒のある食べ物を避けるため

ところが、その後の幼児食から普通食に移行する段階でも、(子供が食べないと思い込んで)酸味や苦味のある食材が使われなくなってしまったのかもしれません。

子供が食べない、食べ残す、と言うのは、食事を作る側にとってとてもストレスです。
そのため、酸味や苦味のある食材を避けるようになってしまったのかもしれません。

料理の美味しさは、前述のうま味、塩味、甘味だけではなく、酸味や苦味、香りや食感、音など、五味と五感を刺激する要素がバランス良く整った状態だと思うので、わかりやすいうま味ばかりが強調され、苦味や酸味のない料理を食べ続けることによって、味覚が単純化してしまうのではないかと危惧しています。

もちろん、毎日毎食が五味と五感を刺激するような難しい味の料理ばかりでは、疲れてしまいます。

毎日の暮らしとバランスを取りながら、食べることと、料理を楽しんで頂けたなら素敵だなと思いつつ、今日も料理を作っています。

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古谷 真知子:家庭料理のコンシェルジュ
試作のための食材費や、子供達が使いやすい調理器具の購入に使わせて頂きます!