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マプチェ族の手編みバッグ、ピルワ

前回に引き続き、南米の植物からできた糸で編まれたバッグを紹介したいと思います。今回は、チリのラフケンチェ族の手編みバッグ、ピルワについて。

チリにはまだ足を運んだことがなく、この国の手仕事に関する資料があまり手元にありませんが、今回はわずかな手元資料とネットで調べた範囲内での説明にとどまります。実際に旅をしてみて、追加することがあれば、また別の機会に触れたいと思います。

チリ南部には様々なグループからなるマプチェ族が多く住んでおり、今でも自分たちの伝統を守りながら暮らしている人たちがいます。中でもブディ湖周辺で暮らすラフケンチェ族は、昔から、チュポンと呼ばれるパイナップル科の草を使って、農業や漁業で使用する用具などを作ってきました。その代表的なものとして、ピルアと呼ばれる袋があります。チュポンの繊維を撚った縄で編まれたこの袋は、作物の収穫や採貝に使われたり、貯蔵用に使用されたりしてきました。現在は、野菜などを運ぶのに適応していることから、チリ全国でエコバッグとして認知され、チリの一般社会にも広く普及しています。

重さに耐える丈夫なバッグを作るために、材料となるチュポン選びは、慎重に行われます。原生林が作る日影で育った、柔らかくて、根元近くに生えた新葉でなければなりません。そうでないと、長くて、柔らかくて、丈夫な縄ができないのだそうです。丈夫な縄を作る秘訣は他にもあり、それは、
1.チュポンの繊維をきちんと撚っておかないと、縄は容易に切れてしまう
2.温かい場所で保存しておけば、切れることなく、一生使える
のだそうです。

ピルワ作りは、ラフケンチェ族の家庭内で伝授され、親から子へと家族代々に伝えられていくもの。子供はチュポン収穫の作業時から親や祖父母に同行します。収穫後、囲炉裏の前で、子供たちは糸を撚り、その側で親は縄を編み、袋にします。このように家族団らんの中で、子供たちはピルワ作りを自然と学んでいくのだそうです。

昔は、前述した通り、ピルワは、ラフケンチェ族の間で使用されていたものですが、彼らはこの袋で、部族外の人たちと物々交換をし始めます。ここから、20キロの重さにも耐える丈夫なピルワが、買い物かごとしてチリの一般社会に普及していきます。とは言え、最初の頃は、手仕事にかかる労力に相反して、彼らが得たものは、たったカップ一杯のハーブか砂糖だけだったそうです。

80年代に入り、チリの一般社会でも、買い物かごがビニール袋にとって代わり、さらには、森林破壊が進んだため、材料であるチュポンの採取も難しくなっていきますが、ピルワ作りは決して廃れることはありませんでした。現在では、ラフケンチェ族のカゴ職人やその家族が中心となって、チリ国内でのピルワ普及に積極的に力を入れています。

冬一番の雨が降ると、農作業を止めて、昔ながらの技法でピルワ作りが始まります。数十キロの道のりを歩いてチュポンを収穫した後、葉を一本一本布で拭き、とげをとります。それから、生け花の剣山のような木片に釘が一杯ついた道具で葉を裂きます。裂いた繊維を3~4日かけて日干しか、薪ストーブの近くで乾燥させてから、ようやく編み作業に取り掛かります。繊維を撚って30mの縄を作り、5時間かけて一枚のピルワができるのだそうです。

参考文献:Fundación Denostros, 2019, Pilhua Wechekeche Cestería para la gente joven, Chile.
https://fundaciondenosotros.cl/wp-content/uploads/2020/04/Pilhua-Wechekeche-Fundacion-denosotros-1-1.pdf

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