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とにかく明るい安村さんから考える「笑いのツボ」と「国境」

 その昔、イギリス出身のブロードキャスター、ピーター・バラカンさんの講演を聞いたのですが、特にこんな一言が印象に残っています。「ユーモアはなかなか国境を越えない」。「イギリスの笑いは日本に比べていじわるな部分がある」ともおっしゃってました。アメリカに移住したお笑いタレントの野沢直子さんもテレビでこんなことをおっしゃっていたと記憶しています。「アメリカ人は日本人とは笑いのツボが違う」。

 要は「文化の違い」というやつなんでしょう。確かに、何が面白いと感じるかはその人が暮らしてきた環境によって異なるとは思います。国が違うとなればなおさらです。寿司が知られていない国で寿司のジョークなんて根づきようがありませんし、そんな方にいきなり寿司あるあるを言ったところで通じないでしょう。では、笑いの全てが国を越えないかというと、そんなことはないと思いますし、上記のお二方だって全部が通じないとは思ってらっしゃらないと思います。どこの国で育っていようと同じ人である以上は共通する点があるでしょうし、その共通する点を使ってウケを狙えば笑ってもらえる可能性は充分にあるでしょう。また、相手に通じなくても、分かりやすい表現に変えれば何とかなる場合もある。

 とにかく明るい安村さんがイギリスのオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」で大ウケだったことがその証拠なんじゃないかと私は勝手に思っています。ご存じの通り、やったネタはご自身のブレイクのきっかけにもなった「安心してください、はいてますよ」のネタです。

 ウケた最大の理由は、どこが面白いかどこの国の人が見ても一発で分かる点でしょう。「はいてるけど裸に見える」。少なくとも服を着る習慣のある人には面白さが通じます。つまり、これはかなりの人に通じる。普遍性があるわけです。

 最初のポーズまでの流れもウケるのに必須の要素が詰まっています。番組の舞台とは言え、見知らぬ男が現れていきなりパンツ一丁になり、片言の英語で「私はパンツをはいてます。でも、裸のポーズができます」などと意味不明な供述を始めるのです。ちょっとした不審者であり、軽く空気がピリついたかもしれません。しかし、最初のポーズを決めたことにより、なぜこの男がこんな格好をして、「裸ポーズができる」と言っていたのか、みんな理解するわけです。安村さんの格好やセリフの全てにちゃんと理由があると知る。しかも、思いもよらない形で。そこで、不審者感がなくなるどころか、むしろ「面白いことをやっているじゃないか」となる。この落差が強烈なウケに繋がった部分はあると思います。

 思えば、日本でやった時もそんな感じだったように思います。裸の男が「全裸に見えるポーズができる」とか意味不明なことを言う。何だろうと思っていると、思わぬ形ではいてないように見えるポーズをする。当時は全然そんなこと思ってもいませんでしたけれども、普遍性があるネタだったんだなあと思います。ノリのいい音楽も国を問わない部分がありますし。

 同時に、相手に通じやすいようなネタにしているところも特筆すべき点です。全裸に見えるポーズはサッカー、乗馬、ジェームズ・ボンド、スパイス・ガールズとイギリスに馴染みのあるもので一貫しています。名前が「とにかく明るい安村」ではなく「Tonikaku」と短くしているのは、日本語に馴染みの薄い方々への配慮だと思われます。映像では更に短く「トニー」と呼ばれていましたけど、結果的に現地の方々にも馴染みのあるあだ名に落ち着いたと思われます。

 人はそれぞれ違うけれども、似ている部分ももちろんある。安村さんのネタはそれがうまくハマった好例と言えましょう。

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